彼女の決断
『【思案】マスター、ご相談したい事が』
執務室で陳情書に目を通していた俺に、ファティマがそう、声を掛けてきた。
ファティマから相談って珍しいな。
「構わんよ」
態々【念話】じゃなく普通に声を掛けて来たって事は、他の聖武器達には、あまり聞かせたくない内容なんかね?
『【苦悩】大変、私事で恐縮なのですが……どうやら、バージョンアップを行わなければならない様なのです』
「はい?」
いや、言葉的には分かってるねんで? バージョンアップ? え? 何? OSの書き換えとか有るの? 聖武器って。
俺がキョトンとしているのを見て、ファティマが申し訳なさそうに肩を落とす。
『【嘆息】前々から少しずつなのですが、私の身体の方が、マスターの【プラーナ】に追い付かなくなって居たのは分かっていたのです。そもそも、マスターは少し前から、私が破損しない様に【プラーナ】で、保護をしてくださっていましたよね?』
「うん、まぁ」
気付いてたんね。まぁ気付くか。
『【消沈】ですが、それは一方的にマスターの能力に依存していると言う事であり、例えば、武器が私ではなかったとしても、同じパフォーマンスで運用できると言う事に成りませんか?』
……俺にはそんな気は無かったんだが、武器としては、プライドに傷が付くってぇ事に成るのか。マズったな。
『【気合】ですので、ここで、バージョンアップをし、マスターの力に耐え得る様に強化されたいと思うのです!!』
おおう、思ってた以上にポジティブだった。どうやら彼女には修〇式ポジティブ思考法は必要ない様だ。
いや、思えば、俺も最近はやってないな。まぁやらなくてもネガティブに襲われる事が無くなってきたからな。
つまりは、俺も成長したってこったな。何せもう7才だしな!!
「で、そのバージョンアップってのはどうするんだ?」
『【多分】方法はわかっては居ませんが、生きてるダンジョンの管理をしている彼女を頼ろうかと』
ああ、現在進行形で、ダンジョンをバージョンアップさせ続けてる彼女なら、何らかのヒントは得られるだろうな。
「分かった、獣人の王国の方の不安が有るけど、生きたダンジョンに行ってみるか」
『【拒否】いえ、そこまでマスターの手を煩わせるわけにはいきません。ただでさえ、これは私事ですので』
そう言われてしまうとなぁ。ただ、俺としては主武装として活躍してくれているファティマには感謝してるし、武器としてではなく、色々と相談に乗って貰ったり、私生活を支えてくれている彼女には報いたいとも思ってるんだが。
『【苦笑】そう言う建前もあるのですが、これ以上、マスターに依存してしまうのも……私は、“武器”として、マスターと対等の相棒と成りたいのです』
「……そうか」
相棒か。彼女にも武器としてのアイデンティティって物が有るって事か。そうだよな、ファティマは飾られるだけの美術品って訳じゃない。今まで幾つもの困難を共に乗り越えて来た相棒だもんな。
「分かった、つまり、しばらく暇が欲しいって事だな? うん。許可するよ。頑張ってな?」
『【安堵】はい、ありがとうございます!! もっと貴方の役に立てる様に強化してまいります!! マスター!!!!』




