油断せずに行こう
「他の聖武器を取り返すのじゃ」
……成程。大体わかった。
「……聖武器のある宝物庫に入る算段はあるのか?」
「トール卿、聖武器を管理している宝物庫には、むしろ王族の、王家の血が無ければ入れんのだ」
俺の質問に、ゴドウィン侯がそう言う。ああ、そう言う事か、エリスを修道院送りを名目に襲撃拉致しようとしたのは、現王のスペアの意味ももちろんあるが、むしろ聖武器を管理してる宝物庫対策だったんだな。
エリスさえ居なく成れば、王城に居る王家の血を持っているのは国王だけだ。たとえ王妃だったとしても、“血”そのものは外様だし。
そしてその王様は側室こと魔族に骨抜きになってるから。
ただ、側室が魔族って事は、王様、骨抜きと言うか多分【魅了】か【洗脳】をされてる可能性が高いよな。テンプレだし。
後、ゴドウィン侯、別に俺は爵位とか持ってねぇから卿はいらんぞ。
「そうなると、派手に行った方が良いかね?」
「……手加減はするのじゃぞ?」
「姫様、聖武器に認められしトール卿と言えど、城の兵を相手に手加減は……」
国王が出陣しているのでは無ければ、近衛兵や親衛隊と言った戦力は城に居るだろう。彼等は王を守る最後の砦だ。弱い事など有ろう筈はない。
それ故のゴドウィン侯の心配なのだろう。
だが、エリスは溜息交じりに首を振る。
「アンドロス候。トールが手加減せねば、城が崩壊するのじゃぞ?」
そんなエリスの忠告を聞いても、ゴドウィン侯は大袈裟と思ったのか、本気にせずに苦笑をするだけだった。
まぁ、エリスの前では奈落の谷を埋めたりして見せたからな。それを知らないゴドウィン侯の反応は、もっともだと思うぞ? 普通、単身で地形を変えられる人間がいるとか思わんからな。
さて、そうなると、今回はエリスも必須と言う事に成るか。
う~ん。心情的には安全な場所にいて貰いたかったが、こればっかりは仕方が無いのか。
「わたし、も、いく、よ?」
置いてけぼりの気配を感じたのか、イブがそう言った。
いや、流石に今回ばかりは参加させられねぇだろ。
俺はそう思ったのだが、エリスやファティマは別意見らしい。
『【意見】サー、個体名【イブ】の有する魔力量は、一般平均を遥かに上回ります。こちらは少数での攻撃と成るので、無傷で制圧するためには、彼女の力は有用だと愚考します。サー』
「そうじゃぞ、ワシもイブの魔法を何度か見たが、いずれも規格外と言って良かったのじゃ。ワシとて家臣を徒に傷付けとうはないのじゃ。何より、仲間ハズレは可哀想じゃろう?」
そんな二人の言葉に、イブもコクコクと頷く。
いや、可哀想て。
チラリとラファを見れば『ボク、ちゃんと守るよ〜』って感じに尻尾を振っている。
う~ん。不安はあるし、何よりこう言った人同士のイザコザにあまり関わらせたくはなかったんだが……
「それにの、あまり過保護過ぎれば、イブの育つ芽を摘んでしまう事になるのじゃ」
『【同意】サー。彼女の魔法の才能は、積極的に伸ばす事を推奨します。サー』
おおう、まさかのダメ出し。傍から見てると、俺のイブに対する態度って過保護に映るんじゃろか?
俺なりに厳しくしてるつもりなんだがなぁ。
見れば、イブが期待を込めた瞳で俺を見ている。
俺は大きくタメ息を吐いた。
******
作戦は簡単だ。俺達が正面から派手に突っ込み、エリス達が宝物庫から聖武器を取ってくる。
懸念事項があるとすれば、聖武器が既に別の場所へと移動されている事と、魔族側が聖武器を使用すると言う事だが、ファティマと同じ様に意思を持つ武器だとするなら、魔族側に力を貸すとは思えない。それは使われるとしても移動させられるとしても、だ。
いや、聖武器が『この世の全てを破壊し尽くしてやるぞ~』とか考えてたらその限りじゃないんだが。
それでも強引に移動させる事は有り得るし、使う事も有る……かもしれない。
いや、強引にって事はずっと反発してるのを押さえ込みながらって事に成る。よっぽど使ってる魔族がマゾいヤツでもない限り、そんなペナルティープレイなんぞせんだろう。
それはともかく、正面突破の囮班は俺とイブ、犬達が受け持つ事に成った。まぁ当たり前だがな。
宝物庫班はエリスとゴドウィン侯、それと彼の長男次男。二人とも騎士だそうだ。そして手練れの兵を何人か。
こっちも少数精鋭ってやつだ。
作戦の決行は今夜となった。やや性急だが、正直もう時間がない。明後日には王弟派が王都前に陣を敷くだろうし、そんなタイミングで騒ぎが起これば、そんなもの王都を攻め落としてくださいと言ってる様なもんだ。
それに、俺達も魔族と闘うのに王弟軍の横槍とか入るのは、正直勘弁してもらいたい。今夜で魔族との片を付けて、明日には王弟派対策って事で何とかしたい所。何だろう、このタイムアタック。
詳細は決めず、その場での判断で臨機応変に対応しなけりゃら成らない。その上、不殺と言う縛りもある。
正直行き当たりばったりで大丈夫か? って考えが頭を過るが、そう言えば格上との戦闘は、大概が不意のエンカウントアタックだったな。
なら、今回も何とか成るか。
油断はしないし、するつもりもない。数的には向こうの方が圧倒的有利だしな。
それでも何とかするさね。邪神復活の瀬戸際って訳じゃなく、この内戦が、その邪神の為のただの血の生贄を捧げるだけの、供物を送るってだけの意味しかない行為だってんだからな。
そんなんじゃ、参加させられた兵士は堪ったもんじゃないし浮かばれない。
……そんじゃあ、まぁ、サクッと魔族でもぶっ倒しに行きますか。




