うんうん、知ってた知ってた
「もう一つ、卿に謝らねば成らぬ事がある」
うん? これ以外に何かあるのか?
アルバストラが神妙な顔でそう言う。謝らねばならない他の事ってのは何だ? やっぱり、何か時間稼ぎの様な策が有ったって事か?
「実は、冒険者連中に共闘を持ち掛けられていたのだ。『アイツ等を王都から引き離してくれれば、アイツ等の協力者をこっちで何とかする。流石に協力者が居なくなれば、アイツラも引き下がるだろう』と」
「あ、はい」
うん、知ってた知ってた。それジャンヌが全員、捕まえてるから。昨日の夜も連絡来たし。むしろ収容場所が足りなくて困ってたし。
「卿程の強者が、我々の仲違いを助長するような下らぬ策など用いる筈が無いというのに……わしの目は曇って居った」
強者が策を用いないとかってのは思い込みだと感じるんだが、そもそも暗躍してるの魔族だし。
それはそれとして、まぁ、俺は離間工作とかはしてねぇんだわ。そもそも、そんな意図があって国王君の方に付いた訳じゃねぇし。
あくまで俺は、暗躍してる魔族の策を潰したいだけだしな。
実際に対面した事なんざ無いし、今も正体はつかめてない相手だけんども、そいつが行ったと思われる事件に関しちゃ、俺も何度か関わってるし、そのいずれもが放置してたら碌な事にはならなかったであろう事件だったしな。
それにそいつ、俺の事を事件から遠ざける為に、こっちにちょっかいを掛けて来てるし。もはや“敵”って事で良いだろう。
多分向こうも、事件に係わっては解決してる俺の事を疎ましく感じてるんだと思うし。だからこそ遠ざけようとかして来るんだろうからな。
「取り敢えず、スーリヤ達なら大丈夫だ。仲間の一人を護衛に付けてある」
「何と!! いや、冒険者の考え付くような事な卿にはお見通しだったのだな」
囮に食いつかせて於いて、その仲間を掻っ攫うなんて事割とポピュラーなんじゃねぇの? 冒険者云々は、あんまり関係ないと思うの。第一、俺も現役冒険者なんだが?
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取り敢えず、俺が国王君の後ろ盾になる事は軍部に認めて貰った。こんだけ大騒ぎをして得たモノはそれだけなんよなぁ。いや、それだけでも充分な成果ではあるんだが。少なくとも今後、軍部が俺と敵対しようとか思わないであろう事は朗報ではあるんだが。
ただ、別に獣人以外を排斥するって事を主張する事自体は『どっちでも良い』としておいた。主義主張を力ずくで押さえようとは思わんからな。
ただ、ソレを行った時のメリット、デメリットについてはちゃんと考えて欲しいとは言っておいた。
軍務卿、清々しい表情で『心得た』と言って別れた筈なんだがなぁ。
「何でここに居るよ軍務卿」
スーリヤの屋敷の宛がわれた居室で、ソファーに座って紅茶を飲んでるアルバストラに、そう訊ねる。
「いえ、わしはもう軍務卿ではありませぬ」
「あん?」
アルバストラの話だと、彼はあの後、軍務卿の地位を後進に譲って、自分は鍛え直す為に俺の元を尋ねたらしい。いや、何で鍛え直すってので俺の所に来るのかが分からんのじゃが?
「いや、どんな理由としても鍛え直すと言うのであれば、やはり、本物の処に行くのが一番じゃろう」
ああ、うん。分かった様な分からない様な。




