逃げるが勝ちと言う言葉もある
「まさか、こうも直接的に行動に出てくるとはなぁ」
「ん!」
『【嘆息】マスターの情報を聞いて居ないのでしょうか?』
俺達を包囲するかの様に町中を動いてるのは、恐らく獣人の冒険者達。当然だが目に見えてるってぇ訳じゃない。そこまで無能だったら、むしろ大したもんだわ。
一応、隠形術の様な物も使って隠れながらの行動ではあるが、俺達にして見りゃ、殺気も気配も隠れてない時点でバレバレなんだがね。イブは何かやる気に満ちているし、ファティマは呆れた様に頬に手を当てて、溜め息でも吐いているかの様だわ。
スーリヤの邸宅に籠ってるのも精神衛生上よくないだろうって事で、街に繰り出して見た訳なんだが、ここが光教会の拠点に成ってる街だからって事で、ちょっと油断してたみたいだわ。
いや、油断し過ぎて居ないからこそ、こいつらに気が付いたんだけんどもさ。
恐らく、こっちの噂話位は聞いては居るんだろうが、前に怪盗ばりの脱出してたからな。もしかすれば過小評価されてるのかもしれん。
ここで倒しちまうのは簡単なんだが、今は時期が悪いんだよな。
俺が貴族だって事を知ってるのかどうか迄は分からんが、もしここで俺が手を出しちまったら、例えそれが真実とは違っていたとしても『貴族が平民に手を出した』ってぇ醜聞に成っちまうと思うし、俺だったらその位の罠はかける。
そうなると、ヴォルフガングはその事で自分達の結束を高めるだろうし、もしもの時の為に、スーリヤ達が貴族連中に根回ししてる策が台無しに成るだろうさね。
だから今回も前回同様、逃げの一手しかない訳だな。俺が彼女達の足を引っ張るってのも避けたいからなぁ。
「はい、そう言う訳で戦闘は回避します。ミカ達は遅れるなよ? 俺に付いて来れるやつもな! それ以外の全員、俺につかまれ」
「ん!」
『【了解】サー、イエス、サー』
『【了承】オッケー、デス』
「分かりました!!」
「オケ」
『よいよ~』
左右の腕にイブとティネッツエちゃん。背中にラミアー前にセフィ。そして両肩にファティマとジャンヌがしがみついて来る。ちょ、聖武器’Sとラミアー! 何故おまいらまでしがみつくか!! おまいらは自力で付いて来れるだろうが!!
『【進言】マスター、今は問答している時間はありません!!』
『【発言】包囲網が出来上がる前に脱出デェス!!』
「ハゲドウ」
っ! こん畜生!! 後でキッチリOHANASHIだ!! おまいら!! 俺は体内循環を加速させ、一足飛びに町の住居の屋根まで駆け上がる。
駆け上がり程度なら、ミカにしろバラキにしろ既にできる様になっているからな!! ウリは元々駆け上がってたし、ラファも危なっかしいながらも付いて来れてる。
俺達は、そのまま、屋根を走り、包囲網を駆け抜け突破した。
それを見た獣人の冒険者達が、俺達の後を追おうとはするが、流石の身体能力だわ。屋根まで足をかけて飛び上がるくらいは出来る様だが、それでも駆け上がるような真似は出来ないらしく、その間に距離を取れた事もあって、まともに追って来る事は出来ない様だな。
「はっはっはっ!! あ~ばよ! とっつぁ~ん!!」
いや、とっつぁんって程歳食ったヤツが居るのかは分からんのだがね。




