想像できる未来
23/06/19
分かり辛いかと思った表現を修正しました。
この事でのお話の流れに変更はありません。
「“混乱”や“不安”、ですか……」
スーリヤが眉根を寄せながらそう呟く。まぁ、社会情勢が不安定なら、なんぼでもそう言った感情が生まれるし、範囲が広すぎるか。
ただ、安定したと思った後に、真逆の事件が起こった場合、その混乱具合は、ただ事件が起こった時よりも、大きくなるだろう。
つまりそれは、より大量の【オド】を得られると言う事でもある訳だな。
確かに、魔族のエネルギー効率は高いかも知れないが、だからと言って大量に摂取しない訳じゃない。
バフォメットに聞いた所によれば、一度に大量に得られるなら得られるで、色々な意味で美味しいらしいからな。
人間的な嗜好の意味合いもあるが、短期間での大規模な【オド】の摂取ってのは、単純に、魔族のパワーアップにもなるらしいんだわ。
魔族本体が摂取してるってのもあるが、その魔族の体を通して、邪神にも【オド】ってのは送られてるっぽいんよね。まぁ、バフォメットやら何やらの話を聞いてる限りでは、って事ではあるが。
そうして【オド】を受け取った邪神は、その魔族に対する【加護】を強める。単純に【オド】によって邪神の力が強まるから、【加護】が強くなるのかもしれんが、そう言った事が起こるんだそうだ。
この辺りは俺の推理が混じってるけれども。それ程的外れってぇ訳でもないと考えてる。
「うん、鎖国を行うって事の理由として、他種族を排する事で、国内での他種族による獣人に対する犯罪行為を防ぎたいってのがある訳だ。だけど、実際にはそれ程効果なんざ無いだろう」
俺の言葉にスーリヤが目を伏せる。尻尾も力なくダランと垂れ下がった。うん。彼女も、その辺の自覚はある様だな。
獣人ったって、誰も彼もが聖人君子って訳でもなければ、力を信奉してるからと言っても絶対服従してる訳でもない。
つまりは、普通の人類と、それほど変わりなんざ無いってぇ事だ。
それはすなわち、他種族を排斥し獣人だけの国にした所で、それほど犯罪やら、貧富の差による理不尽なんかが解消されないって事でもある。
せっかく変わると思って協力したにも関わらず、その成果が出なかったとすりゃ、周囲の人々の感情は落胆に変わるだろう。
ましてや、変わった後の方が、より悪くなったとしたら?
『良くなるはずだったのに』と、混乱が広がるし、そんな状態が続く様であれば、不安も出るだろう。
そんな状態が長く続けば続くほど、大量の【オド】をそれなりの期間、取り続けられる事に成るってぇ訳だ。
それも『変わるかも』と期待させておいてからの下げ落としとなる訳だから、その感情の振り幅も、さぞや大きいだろうさね。
「効果が無いって事で、住人の期待は絶望へと変わる。それは確かだと思うんだがね? どう思うかい、スーリヤ」
「はい、その通りだとワタシも思います」
ましてや、貴族連中の中では、日和ったり自身の利益を求めてる輩の方が多いとなりゃ、鎖国を行なえば、他国から干渉されるってぇ事態は少なくなるだろうし、外敵って言う存在が無くなる訳なんだから、そう言った連中が、商売的な部分でも、自身の利益に固執する事で、例えば競合する相手が居なくなったからと、作物やら何やらの価格を上げてみたり、税率を高くしたりするであろう事は想像に難くない。
そうなれば始まるのは強者による搾取であり、弱者の踏み付け。つまりは、より一層、“混乱”や“不安”が溜まりそうな状況な訳だな。
俺の予想する未来に、スーリヤ以下イネスさんも侍女たちも護衛騎士の方々も、口を噤んで、ごくりと喉を鳴らした。
それはつまり、彼らもあり得ないと一笑に付す事が出来なかったってぇ事でもある。
「正直、こう言った政策やら何やらに、それほど詳しい訳じゃない俺でも、そこの程度は考え付くんだ。専門に考えてる奴等なら、もっと厳しい未来を予想する事は出来ると思うんだがね」
そう言った、俺を見ている獣人の王国の聖女さん達一行は、誰一人として口を開く事が出来無かった様だった。




