敵の内を知る
「魔族が、騒ぎを起こす理由の大半は、食事の為なんよ」
「は?」
「え?」
俺の言葉に、スーリヤもイネスさんもポカンとした表情になる。まぁ、そうだよな。その姿が確認されるだけでも一都市が壊滅する事が有るってぇ存在の、その、国すら壊滅させんとする行動の、その理由が『食事の為』な訳だから。
「魔族は、【オド】と呼ばれる生体磁気を摂取する事で、その生命活動を維持してるだわ」
魔族は、【オド】を喰らう事で身体を維持し活動を行っている。いや、逆に、【オド】以外の物を摂取したところで、生命活動を維持できない訳だな。
最も、コストパフォーマンスはかなり高いらしくて、摂取する量はそれほど多くなくても構わんらしいんだがね。
「で、その【オド】なんだけど、これが、魔族各々によって、好みってか、【加護】をくれた邪神によって必要な【オド】のタイプが違うらしいんよ」
「【オド】のタイプ?」
「うん」
首を傾げる二人はどころか、侍女の皆さんやら護衛騎士の人達。まぁそうなるか。そもそも【オド】ってのが何なのかって事から説明せんとあかんよな。
「【オド】ってのは、生体磁気、つまりは生物から発生している磁力の事で、それは生物が生きていれば必ず発生させてる物なんだそうなんだわ。で、この【オド】のタイプってのが、発生させている時の“感情”によって、変わるってぇ話なんよ」
「“感情”? あぁ!! つまり、人々の苦しみや悲しみによって発生している【オド】と言う物を魔族は摂取していると!!」
やはり、魔族は邪悪なモノだと思ってるらしいスーリヤの言葉に、俺は一応首肯する。大まかには間違っては無いからな。
「まぁ、絶対に苦しみや悲しみってぇ訳じゃないんだがね」
「と、言うと?」
イネスさんが小首を傾げた。スーリヤも同じ気持ちなのか、俺の方をじっと見て来る。
「さっきも言ったが、その魔族に【加護】を与えた邪神によって、その内容は異なってくるんよ。それこそ、闘争心だったり、欲情なんてものまであったからな」
俺が闘争心と言った辺りで、イネスさんが眉をしかめる。まぁ、そうだよな【闘神】とやらを崇拝している彼女にとって、その事に関わるであろう感情が、寄りにもよって、魔族の糧と成り得る訳なんだから。
「『あった』と仰るのであれば、オーサキ伯は、そう言った魔族と相まみえたことがある、と、言う事でしょうか?」
「……話を聞いた事が有るってぇだけのことだよ。人よりは魔族と相対した事は多いからな」
「そう、ですか」
あまり納得が要って無いってぇ表情だな。とは言え、バフォメットやらゴモリーやらの事について、話す訳にもいかんからなぁ。これ以上は、ね。
「つまり、今回の事も、その【オド】とやらを得るための手段である。そういう事ですね? オーサキ伯」
「そういう事だな。つまり、今回の事件の裏に居る魔族が、どんな【オド】を必要としてるか分かれば、その作戦の内容も、なんとなくだが、読めるってぇ事な訳だ」
確かに今回の鎖国の事だけを見れば、どんな意図があるかなんて、良く分からないだろう。ただね、俺はこの黒幕をやっている魔族が、かつて公都で子供を攫っては好事家達に奴隷として売っていたってぇ事実を知っている訳だから、その事も踏まえれば朧気ながらでの推測は成り立つ。
「今回の事で言えば、特に冒険者連中が主張してるメリットが、そのままデメリットに成り得るんだ」
「と、言うと?」
「恐らくだが、今回必要だと思っている感情は“混乱”とか“不安”なんだと思う」




