会議は回る
俺が聖女さんに伝えた、『分派を作れば良いじゃない』と言う意見は、まるで目から鱗の様に伝わったらしい。獣人の王国の教会内部の意見を必ずしも全員一致させる理由なんか無かった筈なんだがねぇ。
要は教会としての意見として王国に知らしめなければ成らないとかって、思い込んで視野狭窄に陥ってたってぇ事な訳だ。
おのれオンディーヌ! これもオンディーヌの仕業か!! まぁ、その工作をやったのはオンディーヌだろうけど、図面を引いたのは黒幕の魔族だろうがね。
「後は、貴族連中の切り崩しだよなぁ」
『【懸念】貴族は、国王の力が弱い事もあって、個々人での保身に入る者が多いようです』
その辺は、普通の人間だろうと獣人だろうと同じなんな。
『【軽蔑】その上で、自分が王族の権利に食い込み、よしんば次期国王を抱き込めないか画策してるデス』
……ちょいまち、次期国王て。前国王がお隠れに成ったのが2年前なんじゃろ? だっちゅうのに、次期国王の話が出るって……
『【嘆息】碌なもんじゃねぇデス』
悪辣なのは人であれば同じ事ってぇ話か。あれだな、ヴォルフガングなんかは、獣人ってぇ種に夢想を抱き過ぎてるってぇ事なんだな。言っちゃあ何だが。
つまりは俺が思ってた通り、例え獣人だけしか居ない国を作った所で、犯罪やら闘争が無くなる事なんざ無いってぇ証明しちまってるって事だわな。
まぁ、今更、俺がそんな事をヴォルフガングに説明したところで説得なんざ出来ないだろうけど。てか、ヴォルフガングは市民感情に訴えかけて、獣人のみの国ってのを実現させるべく動いてる訳なんだから、こっちも草の根レベルで市民に訴えかける必要があるって事な訳だ。
随分と後手に回ってる気はするが。
教会内については分派を作るってぇ事で話はまとまってるらしいから、一先ずは良いとして、貴族連中に関しては、スーリヤにもうひと踏ん張りして貰うしかないやね。獣人の王国で、貴族にも影響力が強いのって、彼女しかいないし。
「問題はどう説得するかですよねぇ」
「まぁ、そうだよな」
「そこは神子様にバシッと!!」
「だからそれは却下だってばよ!!」
第一、バシッとって、何をやらせるつもりなのか!!
例えば闘技場のような場所があったとして、そこのスタープレイヤーに成れれば人気を集め、支持されるって事も可能だろう。
だが、この国には、いくつかの興行の様な物はあるらしいが、それぞれが各々で闘技を見世物にしている位しかしていないらしい。
まぁ、お祭りとかでいくつかの団体が共同開催をする事はあれど、獣人の王国で統一の大会をするってぇ事は無いらしいんだわ。
「本来なら、絶対王者として国王が君臨しなければ成らない所なのですが……」
「ああ、現実問題として、国王だからと言って、絶対的に戦闘力が高い訳じゃないし、国王が絶対王者でなければ、国民の失望が半端ない、と。だからと言って接待プレイとかしたら、国民の反感が強いだろう事は疑い様も無いってぇこったな」
まぁ、無理筋を態々攻める必要もないし、出来ないならできないで考えんと。
色々と頭を捻り、意見を出し合うが、決定的ってぇ様な案は出てこなかった。
こっちの話し合いには飽きたのだろう、犬達及び、イブやティネツエちゃん。ラミアーとセフィが退屈そうにソファーで足をブラブラさせてるわ。
ちょっと行き詰まってる状態なので、休憩がてらファティマに新しいお茶を頼む。
「最低でも、国王がこっち側に理解を示してくれれば、一足飛びに鎖国が進むって事は無いとは思うんだがな」
少なくとも、貴族連中はそれで時間が稼げるだろう。ただ、市民達がどう出て来るのか。
確かに一人一人はそれほど強くないかも知れないが、こう言った人達が集まった時の爆発力が凄いってぇ事は、俺にも良く分かっているからな。




