上を向いて進もう
今の所、割りと穏当に計画は進んでるみたいなんだが、それだったとしても、やはり反対するって者は出て来るだろうさね。
結局は現状の体制を変える事に成る訳だしな。
獣人の以外の人種を排除するったって、観光客相手にしてる様な商売は売上が下がるだろうし、例えば夫婦だったらどうするのかとかな。
……もしかしていない可能性も高いのか? 普通は同種族で番うし。
イヤイヤイヤイヤ、家の領にも居る獣耳さん達は、ハーフの更に混血種じゃんか!!
居るって、種族を超えた真実の愛を育んでる方々!!
ん? どうした? バラキ、そんなに身体を擦り付けてきて。よしよし。ほら、ここを掻かれるの好きだよな、お前。
耳元から首後ろをワシャワシャと掻いてやると、バラキが気持ち良さそうに目を細める。ミカは何か生暖かい目で俺達を見てるが。
そして侍女さん。羨ましそうな目を向けて来てるが、アンタにやる事は無いからな?
そう言や、ちゃんとこっちの顔を見てても対応できる様に成ってるじゃん。慣れか? それとも時間の経過で冷静に……成ってないな、ここまでのやり取りの感じから。むしろ、一部パワーアップしてる説まであるわ。
聖女さんの邸宅の宛がわれた一室。国王さんの意志を確認するにも時間がかかるって事で、俺達はここに滞在させて貰っている。
で、俺達お付きの侍女としてイネスさんが付けられた訳だが、何か裏で凄い激闘があったらしいわ。聖女さんが謝りながら説明してくれた所によると。
激闘ったって、イネスさんに俺達のお付きを『やらせる、やらせない』って事でなぁ。当然っちゃ当然なんだろうが、イネスさんは強固に俺達のお付きに成るってぇ主張し、その他の侍女さん連中や護衛騎士さん達が、これ以上迷惑をかける訳にはいかないって事で、説得に泣き落とし、肉体言語までを駆使したにも関わらず、そのすべてを突破して、この座に就いたらしい。
聖女さんは申し訳ないと言った感じで首を垂れて居たんだが、当のイネスさんは、何故か誇らしげに胸を張ってらっしゃる。
「あのな? あんたの主は聖女さんなんだからな?」
「存じておりますとも」
いや、理解していて尚、この態度て。この人の信仰の対象が【闘神】であり、俺の事を【闘神の愛し子】だとか【闘神の神子】だとか思ってるってのなら、その信仰心がこっちに向くってのは分からんでもないんだが、それにしちゃ、最初合った時の無駄に高いプライドはどうしたんだと言いたくなる。
『【苦笑】オーナーが折ったのデス。情け容赦なかったデス』
そう言や、そうだった。自業自得だったよ。その上で引き抜く事は出来ないからとか何とか言いくるめて聖女さんに押し付けたんだったわ。
いや、高位貴族から付けられたらしき教育係を余所の国の貴族が引き抜いたりなんかしたら、それこそ敵対行為と取られかねんから、間違っちゃいないんだが、もうちょっとやり様が……無かったな。うん。あれ以上、俺の出来る事なんざ無かったわ。
人事を尽くした結果がコレだってぇ事なら、甘んじて受け入れなきゃいかんか。第一に常に側に侍ってるってぇ状況だけは回避できた訳だし。
取り敢えず自分の心を落ち着かせる為にミカとバラキをモフリ倒す。
そんな状況でカードゲームに興じてるラミアーとセフィ、そしてティネッツエちゃんとは別に、床に足組んで座って、瞑想じみたモノに集中しているイブと、ソレの指導をしているらしき聖武器’S達が目に入る。
屋敷でなら、メイド服に着替えて俺の世話を焼いてるイブも、ここではお客様って事で、何もやらせて貰えないんで、ジャンヌ指導の下、魔力量を増やす訓練を……って、え? これ以上魔力量増やすん? マジで? 現状でもかなり膨大な魔力量を誇ってると思ってたんじゃが!?
そんな風に思ってイブと視線で会話すると、強い意志の籠った目でこちらを見つめ、コクコクと頷く。そう言えば、『強くなる』ってあの日誓ってたか。
それにしても家のイブさん、向上心のバケモンや。
「トール、様、の、役に、たつ」
十分役に立ってると思うんじゃがね。まぁ、納得できるかどうかは本人の心持ち次第だからなぁ。それを俺に止める権限はないわ。もっとも、身体に影響に出ない範囲での話だがね。無理しちゃ意味ないからな。




