ロボメイドに電気邪竜の悪夢を見させる
『【謝罪】御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい許して下さい許して下さい許して下さい許して下さいもう無理ですもう無理ですもう無理ですもう無理です壊れてしまいます壊れてしまいます壊れてしまいます壊れてしまいます御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい許して下さい許して下さい許して下さい許して下さい……』
頭を抱えながら蹲るロボメイドを傍目に、俺は成し遂げた眼前の光景を見ながら満足して頷いた。
「さすが、トール、さま」
「えげつない程の容赦のなさだったのじゃ」
若干引き気味のエリスとは対照的に、イブは目をキラキラさせてるし、群れのリーダーの実力を見れたのが嬉しいのかミカ達がはしゃぎまくる。特にバラキが甘える様に頭を擦り付けてくるんで、わしゃわしゃと首辺りから耳を掻いてやると嬉しそうに目を細めた。
若干1名、再起不能っぽい感じになってる訳だが。ロボだろうと何だろうと、感情があるせいかトラウマに成るるんな。
何をしたかって? “普通に”武器として扱っただけですが、何か?
………………
…………
……
ただし奈落の谷は瓦礫で埋まりましたが。
******
一時は俺の話を聞くのは断固拒否の構えだったロボメイドだったが、「邪竜を動けなくしてやる」と言う言葉で、話を聞く気になった様だった。
この辺りを不毛の大地にしたのが邪竜なら、このまま動けなくした方が良いのは当然の話だ。それでなくても数百年飲まず食わずだったってんなら、餌を求めてさまよい出てくる可能性も微レ存。
だったら動けなくしてやろうってのが俺の見解。
で、その為には聖斧が必要だと宥めすかせて持ち上げて、聖斧状態になって貰った後、身体能力向上からのアドアップにブースト追加の上、魔力装甲まで発動しての手加減抜きでの破壊活動。
いやぁ、地形が変わった変わった。
途中、聖斧から中止要請とか入ったけど、ガン無視して奈落の谷を埋め尽すまで瓦礫の大量生産をしたったんよ。
だって、邪竜の動きを止めないとって言ってたのは聖斧の方だし。
ご期待通りに邪竜の動きは止めた訳さね、物理的に。息の根も止まってると有難いんだが……どうだろう?
で、一通り終わったらこうなった。
「お~い、ロボッ娘」
『【謝罪】御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい……』
「お~い……」
『【嘆願】許して下さい許して下さい許して下さい許して下さい……』
「……」
『【請願】もう無理ですもう無理ですもう無理ですもう無理です……』
「おい」
『【悲鳴】ひっ!!』
いや、悲鳴って……武器じゃんお前。武器として扱われたんだから、むしろ存在意義的には正しいじゃん。
まぁ、武器として扱われたが故に壊れそうになったんだから、それがトラウマに成ったんだろうがさ。むしろそれを狙った感はある。
正直済まないとは思っているが謝罪はしない。
「で? お前の憂いは解消してやったんだから、協力をしてくれるよな?」
『……』
「……」
『……』
「おい」
『【悲鳴】ひっ!! わ、わかりましたサー!!』
卿? 何故敬称? まぁ良い。
「協力してくれるって事でOK?」
『【了承】サー、イエス、サー!!』
何か性格が変わった気もするが、無事、協力を取り付けられた様でよかったな。うん。
「トール、さま……」
「これは……どうなのじゃ?」
はい、うるさい。そこ二人。
見ろ、犬達は大はしゃぎじゃないか。
ロボメイドの憂いは無くなって……まぁ、これに関しては確実じゃないんだが……協力をしてくれるようになったんだから、問題はない……ハズだ。
むしろ問題が出てくるのはこれからだろう。
バフォメットが向こうにどれだけ情報を渡してるか分からんが、少なくともガープは、エリスが聖武器を探して居る事は伝えているだろう。
だとすると、こっち側に刺客を送って来るか、それとも開戦を前倒しにするのか……
何にせよ情報が足らん。第二夫人は……まぁ無理としても、腐ってもギルマスだ。グラス辺りが何か情報を掴んどらんかね?
「まぁ、何にせよ、とりあえず一旦、帰らんとな」
そう俺が言うと、イブが嬉しそうに微笑んだ。エリスが微妙な顔をしたが。
******
「情報寄越せや!!」
「何のだ!!」
街に戻ってさっそくグラスん所きてみた。エリスとロボメイドは、普通に金払って街に入れて貰った。二人とも身分証とか無かったが、「冒険者のトール」の保証で普通に街に入れた。まぁ、毎日の様に獲物を狩って来てるって事も有るし、ギルマスの秘蔵っ子って事で有名だからな「冒険者のトール」。
そんな事より、今は情報だ。
「最近、魔人国の周辺がきな臭いってのは知ってるか?」
「まぁ、一応隣国ではあるしな、国王派と王弟派の内戦だったか? 国王が若い側妃に入れ込んでる隙に王弟が挙兵したとかって……」
は? ガープと闘ってからまだ1週間も経って無いんだぞ?
「マジか……」
「おう、確か3日前くらいだったか? 王弟派からの宣戦布告が有ったって話が冒険者の間でも出回ってる。ただしこいつは、グラマスが公爵に確認をとったから確実な話だ」
この世界の通信網は基本人力だ。魔獣の様な生き物がいる所為で、都市間のインフラの整備ができない為だろう。精々、緊急時に風魔法を使っての情報伝達が行われる位か? これは一定間隔で作られた砦で、風の魔法を使える人間が常駐する事に成っているらしい。
領主でもある公爵に連絡が入っているのは、隣国だし、国境を接している領地だから、国から通達が来てても可笑しかないが、こんな脆弱な情報伝達手段しかない世界で、短時間で一般冒険者にまで噂が出回るもんか? 何か、作為的なものを感じるな。
いや、“赤銅のゴブリンライダー”の例もある。情報伝達手段が脆弱でも、効果的に噂を使う手段が確立されてるんだろう。
たぶん事前に、「宣戦布告が成された」みたいな情報を持った人間を各地に入り込ませてたとかな。
うん、思ったよりも時間は少なそうだな。
とりあえず素敵な情報をくれやがったグラスには、こちらからも素敵な情報を。
「その内戦、黒幕は魔族な」
「は?」
「それと、森の中の伝説にある邪竜復活してっから」
「はぁ!?」
「何て情報オレに教えやがったんだあ!!」とか言われても、『報告連絡相談』は、立派な社会人の素敵なマナーですので。




