思い出したが掘り下げない
俺としちゃ、鎖国が絶対にダメとか言うつもりはないんだわ。前世の国だって鎖国とかしてた訳だし。まぁ、アレは隣国が数カ所しかない上に、島国だったってぇ条件が重なったから出来た事だと思うし、前世の時代で鎖国しようとか思ったら、エライ労力が掛かるだろうがね。その上で鎖国できない公算の方が高いと言う。
それは兎も角、ヴォルフガングがソレをしようとかって考えたのは恐らく、愛玩として奴隷にされる同胞を無くす為だとは思う。
獣人以外が居なければ、そう言った事をやるような奴も居なくなる的な、ね。
まぁ、甘すぎる考えなんだが。もしかしたら、獣人ってぇ種族が、そう言った同族意識の高い種族で、裏切る事なんで無いって自信があるのかもしれんが……
もしかして獣人の王国の冒険者ギルドがあんな感じだったのは、そういう事なのか? う~ん。それが語れる程、獣人に詳しくないからなぁ。何せ、最近までこっちに居るケモミミの人達の事、獣人だって思ってたくらいだし。
……そうだ、聖女さんに手紙でも書こう。それをルールールーの一族の人に運んでもらおう。そうしよう。
割とあの国で重要なポジションに要るっぽい相手との伝手が有ったのに、何で忘れてたんだろうなぁ。不思議だ。
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「トール様、獣人の王国で、何をなさったんですか?」
「はい?」
この所、いつものと言って良い執務風景。俺が事務仕事をしてる横で、ミカとバラキが足元に侍り、イブとファティマが給仕し、ラミアーがソファーでゴロゴロする。そんな執務室に入ってきたルールールーが、開口一番、放った言葉に、俺は片眉を上げながら、訝し気な声を上げた。
はい? 獣人の王国での事? 何もなさって無いよ? 何かしようとしたら、冒険者ギルドで絡まれたんで早々に帰って来たんだし。
「何か、トール様の名前を出した途端に、聖女様の侍女がエライ勢いで食い付いて来たらしいですよ? 護衛騎士の方々が必死で止めてくれたお陰で事なきを得たらしいですが、それが無ければどうなっていたかと、肝が冷えたそうです」
……あー侍女さんか。忘れてたな。いや、でも、今この時まで苦情が来てなかったって事を考えれば、ちゃんとやってたんだろう。多分。
「いや、多分それは放置してても、さほど問題には成らなかったと思うよ?」
恐らくは襲おうって心算じゃなかったと思うし。
てか、普通の侍女の筈だよね? あの人。いや、聖女さんの教育係でもあるんだろうけど、普通の獣人女性の、ハズ。
護衛騎士の人達に抑え込まれて尚、命の危険を感じる様な人じゃなかった筈なんだがなぁ。
いや、前も聖女さん関係に対してはエラク暴れてたっけか。でも、ちゃんと抑え込める範囲だったんだがねぇ。
「狂信者ぁ」
ラミアー、あんまり不吉なこと言わんで! マジ!! 頼むから!!
パワーアップでもしたんか? この短期間で。
そう言えば『闘神様ぁ』とか言ってた様な気がしたが。もしかして、そっち方面に目覚めたのか?
だからと言って、俺に何ができるって訳でもないんだが。
まぁ、侍女さんの事、深く掘り下げても話進まんし、話題を修正しよう。




