弱点を突くのが定石だよね
女魔族は興味深そうに、俺の屋敷の中を見回してるが、いや、お前、城で暮してた事とか有んじゃねぇかよ。
今更、一領主の館とか、珍しいんかよ。
家の館は、天井こそ高く取ってありはするが、建築様式自体は、この世界の標準のそれと、あまり変わらない。
いや、確かに建築方法自体はかなり変わってるってぇ自覚はあるが、それ、殆どドワーフ共の仕業だから!!
って言っても、見ただけじゃ分からんだろうがな。
「……何か、面白いもんでも有ったか?」
「ううん! トールきゅんの匂いが、そこかしこから漂ってて、濡……」
「言わさねえよ!!」
咄嗟にジャンヌに手を伸ばすと、待ってましたとばかりに聖槍形態に可変した彼女をゴモリーに突き出す。
ゴモリーはそれをバク転で躱し、姿勢を低く取った。
ちぃ、腐っても魔族。身体能力が高いわ。変態のくせに!
「いいわぁ!! その本気の殺意ぃ……ゾクゾクしちゃうぅ!!」
何かもう、これ、ドエムとは別次元の何かじゃねぇか!? 少なくとも俺の知ってるソレは、死を厭わない所はあっても、殺気まで喜ぶような性癖じゃなかったんじゃが?
と、俺の背後から、魔力の奔流が吹き荒れる。
「トール、様、に、迷惑」
「あらぁ……」
桁違いの魔力を感じ取ったのか、ゴモリーの頬を汗が伝った。
てか、イブの魔力は魔族を怯ませる位なんか。いや、ゴモリーはそっち方面も強くはなさそうだけんどもよ、それでも普通の人間とは比較に成らん程の強者の筈なんじゃが?
そもそも、“邪竜”ん時は、イブが留守組だった訳だし。もっとも、時間的な余裕もなくて呼びに行ってる暇が無かったってのもあるが、それでも、魔族女の方が戦力として不安が無かったからってのも本当の事だ。
いや、あの時は単純に、俺が、イブを危険な場所に連れて行きたくなかったってのもある。彼女の覚悟を見て、その考えは改めたんだけどさ。
それでも、厳しい言い方をすれば、あの時のイブは確かに『力不足』ではあった筈なんだ。
そのイブが、今は魔族に畏怖を与えられるだけの力をつけている。
これが、娘の成長を目の当たりにした男親の心境ってやつなのかね? 俺の方が年下だけんども。
と、感傷にふけってる場合じゃなかった。
「イブ、止めろ」
「むぅ!」
俺が声を掛けると、イブが眉根を寄せる。なぜ止めるのか分からないってぇ感じだな。ゴモリーの方も俺が止めたのが意外らしく、方眉を上げた。
いや、俺に見捨てられると思う様な事してる自覚あるなら、止めろやと言いたいが、コイツ、それで蔑まれるのが快感なんだったか。うん、処置なしだわ。
「イブが魔法を使う方が被害が大きいし、やるときゃ、俺が自分でキッチリ始末するから。な?」
あまり納得も行ってない様だが、それでもイブが頷いてくれる。
「それとゴモリー、余計な事だけじゃなくふざけた事やるなら……」
「あらぁ、直接『殺し愛』ってくれるのかしら? 今の話だとぉ」
なぜうっとりした顔をするかね? おまい戦闘好きじゃないとか言ってなかったか? てか、やっぱ、そっち方面だと喜ばせるだけだな。仕方ない……
「バフォメットを呼ぶ」
どの道修練場に居るし。
「!! ごめんなさい‼! それだけは堪忍してぇ!!」
おおう、見事な土下座だ。




