警戒するべき女魔族
「てか、何しに来た」
「ん~、トールきゅんがぁ、ゴ・モ・リーの事、必要だって思ってるって感じてぇ」
「妄想垂れ流すなや、ド畜生!!」
「ああぁん!! その蔑んだ眼がぁ!! いいわぁ!!」
本気で消滅してくれんかね? この魔族。自分の身を抱いてクネクネと身を捩るゴモリーに、嫌悪感が募るのが止められない。いや、その方が、この魔族は喜ぶって事は分かってるんだがよ。こう。生理的嫌悪感ってのは、自分じゃ止められんのよ。
頬に手を当てながら、小指を甘噛みし、俺の事を発情した猫みたいな目で見てきやがる。
いや、こんな姿見て、それでも魅了されてる周囲の男共はどうなってるんよ。『ああ、可憐だ』とか『うおお!! 堪んねぇ!!』とかって声が聞こえて来るんじゃが!?
それとも、これがゴモリーの権能って事なんか? いやまぁ、エリスパパも一撃でGAME OVERだったみたいだけどもさ!
「ううん!! 本気で嫌われて、『殺し愛』に成るのも良いけどぉ、バフォ……じゃなかったぁ、テモ・ハッパーボ卿に折檻されるのは御免だから、用件だけ話しちゃうわねぇ」
あん? コイツ、バフォメットに言われて来たんか? てか、魔人族国でもそうだったけど、バフォメットに頭上がんない感じなんかね? 渋々って感じだけど、言う事は聞いてるし。
そう思って、首を傾げていると、俺にだけ聴こえる様に話したいのか、ゴモリーはこっちに近付こうとする。
『【阻止】これ以上マスターには近づけさせません』
『【拒否】オーナーには指一本触れさせないデス』
だが、それはモップを突き出したファティマと、杖を突き出したジャンヌによって遮られた。
まぁ、あの情欲にまみれた瞳を見る限り、ちょっとの油断も出来んだろうけどさ、流石にバフォメットと敵対してまで、自身の情欲を満たそうとはせんだろう。そっちは完全にゴモリーの嗜好なだけで、【オド】を食えるわけじゃないっぽいし……しないよな?
「グルル……ワオン!!」
「ワン!! アオーーーーン!!」
てか、二人に阻まれるどころか、ミカとバラキにも警戒されているのを見たゴモリーは溜め息一つ吐くと、出来る限り声を潜めて囁くように言った。
「周辺国にぃ、貴方の悪意ある噂を振り撒いてるのは『オンデーヌ』よぉ」
……この件でバフォメットが動いてくれたってのも驚きだが、ゴモリー情報収集とかできたんか。
「ふふぅん。これでもぉ、ゴモリー、色んな所に顔が利くのよぉ。あちこちにぃ下僕が居るんだからぁ」
「あ、はい」
ゴモリーの性質考えれば、意外でも何でも無かったわ。つまりはハニトラ要員兼、一人美人局ってぇ所か。弱みに付け込む処か、ドロッドロに惚れさせて、骨までしゃぶり尽くすってぇ事やね。クワバラクワバラ。
「まぁ、良い、それ以上は館の中に入ってからにしよう」
『【確認】良いのですか? マスター』
良くも悪くも、人目が多すぎるだろうさね、こんな所じゃ。それで無くとも絶世の美女のせいで、余計な男共が多いんだ。魔族の話題出すにゃ、相応しくないからな。ましてや内容的には『俺が魔族に狙われてる』ってぇ話な訳だし。
「うふっ、トールきゅんのお宅にご招待っ。楽しみだわぁ~」
「言っとくが、余計なことしやがったら、ぶっ飛ばすからな?」
「ああん!! ゾクゾクするわぁ!!!!」
……早まったか? 俺。




