雨上がりの丘陵地帯
すみません。
遅くなってしまいました。
結構な大雨だったが、それでも翌日目が覚めた時には、すっかり雨は上がってたわ。ただ、雨上がり直後らしい湿り気を含んだ空気感と、鮮やかな常緑樹の緑が、雨の残滓を残していた。
周囲を見回せば、緩やかな丘陵とそこかしこに木々が生い茂っているのが見える。寒い地方であれば残雪がありそうなもんだが、そう言った様子も無いんで、結構温暖な地域なのかもしんない。
そう言や、昨日も雪じゃなく雨だったもんな。
『【警告】マスター……』
「うん、分かってる」
窺って居る様な気配。雨が上がったからか、早速のお出ましって所だろうかね、そもそも、家の古代遺跡が、珍しい生物の観察の為に“扉”を作ってたらしいから、高確率で何らかの生物の領域な訳だ。
いっちゃん最初もキメラの巣だったっけな。そう言や、元気かね? キマイラリーダー。
『【警鐘】マスター!!』
ファティマの声に、気配のある方に目をやる。ちょうど逆光となる位置に、いくつかの影。
「グリフォン?」
そのシルエットは、正しくソレの様に見えた。前世でもメジャーだった幻想生物。猛禽類の上半身に獅子の下半身を持つと言う……猛禽類の上半身は羽根までだからギリギリ行けるとしても、獅子の下半身って要は腹から下だよな? 決して四つ足には成らんと思うんじゃが? いや、そんなどうでもよい事を考えてる場合じゃなかった。
この世界に転生して、様々な魔物を見て来たんだが、こう、『コレジャナイ感』が強い奴らばっかりだったからなぁ、初めてじゃねぇか? ちゃんとファンタジーモンスターっぽい生き物見るの。
いや、前世の生き物に比べれば、この世界の魔物は残らずファンタジーではあるんだが、何か、こう、なぁ?
「ファティマ!! オファニム!!」
『【了解】サー!! イエス!! サー!!』
取り敢えず感傷はさて置き、襲って来るってのなら、迎撃してやらんとなぁ? 俺はオファニムに搭乗すると、魔力鎧を纏い接続をし、武器形態へと変形したファティマを手にする。
「イブ!! ジャンヌ!!」
「ん!! 【詠唱破棄】!! 【ファイアランス】!!」
『【了承】オッケーデェス!! 【詠唱破棄】!! 魔法名【ファイアランス】!!』
総数100を超える、最速で高威力の炎の槍が、空中のグリフォンへと飛翔する。だが、空の王者とも言われるグリフォン達は、その空中機動を巧みに操り、加速し、回避し、炎の槍を躱して行く。しかしそれでも、合計30は居たグリフォンの半数程が被弾し、さらにその半数が致命傷を負い、落下した。
『【無念】あまり削れなかったデス!!』
「むぅ!」
思ったよりも数が減らせなかったのだろう、ジャンヌとイブが悔しそうに呻く、が、しかし、奴らの意識を削いでくれるのには成功しているからな!!
「上っ等っ!!」
「ワオン!!」
このパーティーの中で、空中機動の出来る俺とウリが、魔法に合わせて飛び上がっていた。空を蹴り、こちらに突っ込んで来ていたグリフォンの群れの中に逆に飛び込むと、聖斧を振るった。
柄の端を持ち、遠心力でぶん回されたファティマは、しかし、その大雑把な攻撃にも関わらず、周囲のグリフォンを吹き飛ばし、なぎ倒し、地上に落下させてゆく。
ウリは、空中を突っ走りながら、その速度では他の追従を許さないであろうグリフォンのスピードに追従し、攻撃を重ねていった。
ここへ来て、俺達を強敵だと認識したのか、こちらの方に集中し、前足の爪を立て、嘴を突き出し、翼で起こした風塊とでも言う様な物ををぶつけて来る。
俺はそれをファティマでいなし、受け流し、反撃を加えて行く。宙を蹴り、オファニムの噴射で微調整を行いながら、致命傷は受けない様にその攻撃を捌く。
流石は『鳥達の王』。全ての攻撃が鋭く、洗練されているわ。
空中戦は初めてじゃないし、別に戦闘狂って訳じゃないが、ちょっとワクワクしてきたぞ!!




