偶には足を止めて
大して長くもない“扉”を抜けた先は大雨だった。
相変わらず出口付近は偽装されていて、内部に雨が入ってくるって事は無いんだが、少っしばっかり、出鼻を挫かれた気分だわ。
いや、雨が降ってた所で、キャンピングカーの中に居りゃ、関係は無いんだが、調査で来てる関係上、周囲の探索がなぁ。
もう一寸小雨ならどうとでもなるんじゃが、視界の確保も儘成らない大雨だと、どうしてもな。
かと言って、今来たばっかりにも関わらずすぐに戻るのも、何だかなぁって感じで。
「ハゲドウ」
ラミアーが同意してくれるが、お前、単に満足出来るまで遊んで無いから、戻りたくないだけだよな?
この為に、仕事片付けて来たからってのも有るんだが、それだけだったら別の“扉”の調査の方に行けば良いだけなんだけんどもよ。
何か意気込んで来て出鼻挫かれたんで、気勢が削がれた感がなぁ。
あと、雨ごときで戻ったら、何か負けな気がする。
『めっぐっみっの、あめ~!』
「ワオン!!」
「ワン! ワオン!」
植物的には雨は嬉しい事なんじやろね。セフィが態々外に出でクルクル回り、ウリとラファもそれに付き合ってってか、同調する様に、一緒になってはしゃいでるわ。
「トール、様、お茶」
「ん、有り難う」
「ティネ、と、ラミアー、も」
「ありがとうございます。イブねーさま」
「ん! ありありぃ!」
折り畳み式の椅子とテーブルを引っ張り出しての小休止。大雨っつったって、前世のゲリラ豪雨の様なごっついモノって訳でもなく、ザーザーと音を響かせながら総てを雨煙の中に落とし込むかのような雨風景。
取り敢えず、雨を眺めながら俺の膝に顎を乗っけるミカとバラキをモフリながらお茶を飲む。季節がらか雨の為なのか、肌寒い空気にも関わらず、ミカとバラキのおかげで、足元が暖かい。
みんなで同じ方向を見ながらも、誰も言葉を発する様子もなく、唯々、雨煙る風景を眺めるだけの時間。こう言うのも、マッタリしていて悪かぁ無いな。
『ただいま~』
「ワン!」
「ワオン!」
セフィ、ウリ、ラファ! 外で踊り回るのは構わんが、そのままキャンピングカーの中に入ろうとするな! 体拭け体を!! ここに居ても結構な涼しさだったんだ。直接降られてたおまいら、結構冷えただろうに。ってか、ウリとラファは、めっさ水蒸気が上がってるんじゃが!?
「!! 全員退避!!」
やりやがったこの雄犬共。不快だったのは分かるが、俺達の近くで体を振るうなや、水しぶきが飛ぶやろが!!
俺はとっさにティネッツエちゃんを抱きかかえると拳を振るって拳圧で弾き、イブが魔力圧で吹き飛ばした。ラミアーもとっさにバリアーを張った様だな。
「被害は……セフィだけか、なら良いか」
『え~、しんぱいしてよぉ。しょくぶつさべつだよぉ!』
いや、お前元々濡れてんじゃん。
「あ、あの……トール様?」
ティネッツエちゃんの声に、俺が未だに彼女を抱き抱えていた事に気が付く。照れてるのかちょっと顔が赤いな。
「おっと、わるい」
「いいえ!! かばって貰えて嬉しかったです!!」
なら、良いけどさ。
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全員が揃って改めて古代遺跡の外を眺める。雨は未だに止む気配は見せない。ここがどこの大陸で、どんな位置にあるかが分からないから、この雨が季節による物なのか、偶発的な天候の崩れなのかが分からない。それはつまり、この雨がいつ止むのかが分からないって事でもある。
まぁ、急ぎの仕事は無い訳だし、ここで少し休憩するってのも悪くは無いだろう。




