やるなら徹底的にやるさ
元の水源が、放水口より高位置にある場合に、水源と放水口を繋ぐパイプが水で満たされていれば、バイプの位置が水源より高い位置を通ったとしても、水は放水口の方へと流れる。まぁ、サイフォンの原理と言うヤツだ。
サイフォンって言えば、コーヒー淹れる時に使うアレな訳だけど、これ、同じ様に空気の圧力を使用してるって意味では原理としては一緒なんよ。コーヒーの方は沸騰した水蒸気の膨張圧もあるんだけんども。
前世で実際に見た経験が有る俺や、そもそもの科学知識を有する聖武器ならあっさり理解できるんだが、見た事も聞いた事もないってぇ相手に説明するってのは、中々厄介だよなぁ。
まさか、今ここで科学実験をやるって訳にもいかんし。いや、出来ん事はないが、ホースやらストローやらがその辺りで手軽に入手出来た前世と違って、それらの代替品を作る事から始めんといかん今は、準備だけで結構な時間が必要なんよな。どっかに適当な長さの管があれば早いんだがね。
「まぁ、個人宅じゃなく、町単位でってぇ規模の話になるから、目先の蛇口だけを見れば、不思議に見えるだろうけどな」
「町単位……であるか」
「うむ!! そもそもこの街は、オヌシ様が造ったものなのじゃ!! 故に、そう言った大掛かりな仕掛けを都市の設計に組み込めるのじゃ!!」
いや、どこ目線よ。
『【嘆息】どこ目線なのでしょうね? 女王の手柄でもなしに』
「ぐっ」
おおう、聖弓、容赦なくツッコんだわ。そして皇女さんの方は、こんな些細な事を都市計画規模でやってるなんて事に唖然としているな。
でも良いの。前世の利便性は、そう言った些細な事の積み重ねを都市規模で行ってたから出来てた事だし。インフラ大事。
そもそも日本で上流に浄水場を作るのも、全ての世帯に水を通す為な訳だし。上流に施設があれば、それより下の地域であれば、水道から水が出るってぇ寸法な訳だ。
もっともビルなんかの上層階はそれから外れっちまうから、ポンプなんかも併用してる訳だけど。
こっちじゃ、そんな規模の建物なんざ……あーまぁ、なくは無いが、少なくとも俺の領地にゃ無いし、今の所、水が出ないって家は無いから、一先ずは安心している。
でもその内、ポンプ使って圧力掛けんといけん様に成るんかねぇ。
「ぬう、それでは、妾の国では再現できぬか」
「地形次第ですけど、できない事は無いですし、代替えでの案も有るっちゃありますわ」
「本当か?」
山に囲まれた盆地だって事なら、水源をその山の方に設置すれば良いし、もし、井戸で賄ってるってんなら、前世で読んでた異世界モノ定番のガチャポンプって手もある。あれも鋳造技術が有れば出来ん事もないし、何だったらスクリューポンプだって良い。流石にガチャポンプみたいに垂直に吸い上げは出来んが、構造と言う意味では、アレの方が作り易いしな。
何せ、佐渡金山でも同じ原理の物が使われてたはずだし。『水上輪』とかって言ったか?
前世で佐渡金山見学しに行った時、無表情な人形が、恨み節垂れ流しながらアレ動かしてる展示を見た時は、ちょっとトラウマになりそうだったわ。楽しかったけんどもよ。
ただ、ガチャポンプにしろスクリューポンプにしろ、動力が必要なんよね。まぁ、必要分を手動でって事でも構わんだろうけど。
「ですが、どの案を行うにしても、元となる水源が無ければ意味がないですがね」
「うーむ」
確か皇国はサバナ気候だったって話だし。そもそも水源となる場所があるかってぇ事の方が問題だと思うんだよな。
もし無いんだったとすれば、効率よく雨水を溜めて置ける装置が必要だって事になってくる。俺が地下貯水池を作ってたのだって伊達じゃぁねぇんだよ。地下の方が水の蒸発を抑えられるってぇ理由があるんだからな。
水源さえあれば、それ使って、例えば江戸の町みたいに各所に上水道を使った井戸場を作るってぇ事だって可能だしな。
重機械何て物のなかったあの時代に人力でそれやってたんだから、魔法何て手段のあるこの世界で、その位の事、出来んとは言わさんよ。実際、ここの都市の基礎は、ほぼ俺と家族達だけで作ってるんだしな。
まぁ、それは兎も角、農耕にも使うとなってくると、それでも水源は足りんのかもしれんけんどもよ。




