アイムゴーホーム
「何度驚いたか分らぬが、これ程快適な旅は初めてであるな」
「佐為ですか」
家のキャンピングカーに移り乗った皇女さんが感想を口にする。一緒に乗っている侍女さん等も、コクコクと頷いていた。まぁ、ある意味オーバーテクノロジーの塊ですしおすし。
うん。最初は皇女さん、自前の皇国自慢の煌びやかな馬車に乗ってたんだけんどもよ、そこはソレ、現在最高の技術が使われてるとは言っても、馬車は馬車だからね? で、休息取ってる間に、何かこっちの女性陣は腰は痛いとか気分が悪くなったとかって事もなく、快適そうにしてるのを見て、同乗させろとか言って来た訳だ。
で、まぁ、その快適さを目の当たりにした後は、ずっとこっちのキャンピングカーに入り浸ってるって訳だ。
まぁ、余裕はあるから構わんのだがね。こっち、基本子供……に見えるヤツばっかだし。何か御者席の俺の所に固まってるから、リビングの方は空いてるし。
キャンピングカーのリビングで寛いでいらっしゃる皇女さんを横目で見ながら、俺は内心で溜め息を吐いた。
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例え王城でネームまで切れても、作画までとなりゃ、アシスタントが必要なんて事は、自明の理な訳よ。
そんな理由で、取り敢えずオーサキ領に戻る事に成ったんだがね。そんな俺の帰宅に合わせて、同行する事に成ったんよ。皇女さん。
皇子二人は、流石にこれ以上の滞在は都合がつかないらしく、帰国するって事に成ったんだがね。皇女さんだけが滞在日数を延長するってぇ運びとなったんよ。なぜか。
まぁ表向き、皇国建国記の本の監修兼受け取りの為って事でなんだがね? いや、後から送る事も出来るだろうよとか思ったんだが、これも『両国の友好の為』ってお題目掲げられっちまうと、断る訳にもいかんのよね。
これも皇国ってか、皇子さん達からしてみれば、取り込み工作の一環なんだろうけど。
う~ん。皇国的にはもう、俺が“神器”を所有してるって事で確定してるみたいやね。
いや、改めて言いたい。『それ、勘違いだから』、と。聞いてくれやしないだろうが。
まぁ、皇国側としちゃあ、元々、俺が“神器”を使用してるってぇタレ込みが有って、家の国に探り入れてた訳だからな。
散々探ってみて、その上で痕跡すら無かったら、メインターゲットである俺の方にシフトするんは、分からんでもないし、実際、傍から見たらってか、“神器”がどう言う物なのかって事を知ってる人間からしてみれば、ソレをを使ってる様にしか見えんのだろうが、“神器”ってモノが俺の考えてる様なモノだったとするなら、ありゃ、能力の副産物的なものであって、本質そのものじゃないんよね。
恐らく、俺と始祖皇帝こと竜王様は、同じ【プラーナ使い】であって、そうなると、竜王の黒鎧ってのも、オファニムと同じ様に、プラーナで黒く染め上げられたモノだって可能性が高い。
それに、竜王の黒鎧も、始祖皇帝以降は、その真価を発揮するって事が無かったってのを考えれば、【プラーナ使い】の能力依存の代物だったんだろうてのは容易に想像がつく。
だって、黒く染まった状態の鎧って、プラーナの通りが良くなっからね。その上、家のオファニムなんか、増幅までしてくれるんだぜ?
まぁそれはさておき、その所為で『選ばれた某にしか扱えない』的な扱いだったみたいだけど、多分、プラーナさえ使えれば、誰にでも扱えると思うぞ? 恐らくだけど。
とは言え、家のオファニムは自意識があるから、彼が認めたヤツ以外は扱えないと思うけど。
あれ? それって『竜王の黒鎧』も同じって事か?
「……随分と深い森なのだな」
「まぁ、そうですね」
大森林内の俺の領に入った辺りで、皇女さんがポツリと漏らす。確か皇国は平原と切り立った山が多い土地柄で、全体としては大陸中央に向けてすり鉢状に成っているんだったか。
そんな大陸中央は、やや乾燥していて、サバナ気候と言おうか、雨季と乾季がハッキリしているけど、それでも、あまり降雨量が多くないとか言ってたな。
そんな感じの土地に住んでるんで、大森林みたいな巨木群ってか、巨木しかない風景ってのは珍しいのかもしれん。
歴史的に、土地をめぐって争い合うのが常態化してたってのも、肥沃な土地が少ないからなのかね。いや、ホントの所は知らんけど。
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そんなこんなで帰って来ましたマイホーム。やっとゆっくりできるなぁとか思ってたんだけんどもよ、町中抜けて、領主の屋敷に着くか着かないかってぇタイミング。まぁ、一応、先触れはしてるんで、出迎え自体はあっても可笑しくはない。可笑しくはないんだ。
ただなぁ。出迎えてくれているらしき騎士団のその先頭には、ある意味見慣れた、けれども見慣れてちゃ可笑しいシルエットがね。
「おかえりなさいなのじゃ!! お主様!!」
いや、エリス。……何でお前が居るんよ。




