推測と言うよりまだ疑念の段階
事情は見えたが対応策が打てねぇ。
思わずため息を吐いた俺を膝上の翠色の瞳が見上げる。そこでゴロゴロしてるだけって、暇じゃないんかね? 俺の背ってか頭にくっついてる奴もそうだけど……
イブはさっきから甲斐甲斐しくお茶を入れたり軽食を作ったりと忙しなく動き、ティネッツエちゃんは、そんなイブのサポートをしたかった様だが、『私、の仕事』と言い切られ、俺とは対面に成るソファーに、若干そわそわした様子で座っている。
俺の背中からもたれ掛かっているのはいつもの様にラミアー。膝枕で寝てるのがセフィだ。
ファティマとジャンヌが俺の斜め後ろに立ち、ミカとバラキが足元に侍っている。
最近この状態に成ってる事多いけど、これ、何て布陣?
まぁ、それはさておき、現状にっちもさっちもいかないって事だけは分かったわ。
『【苦笑】向こうも『かもしれない』のレベルですからね』
「それな、『盗った』『盗ってない』は水掛け論にしかならんのよ」
『【嘆息】“無い”という証明は出来ないのデス』
盗まれた“神器”ってのが所謂“鎧”らしいんだが、そいつが家のオファニムに酷似してるって話だからな。って、言ってもオファニムは完全に俺専用にカスタマイズしてあるし、そもそも魔力外装を纏えんと接続も出来んってぇ代物だ。それでなくとも、俺は“彼”が誕生する所を見てる訳だし。皇国の“神器”じゃないんだとハッキリ言える。
だが、ソレを証明する手段はないからなぁ。第一、対外的には、オファニムも遺跡からの発掘品って事に成ってるんだが、ソレを証明する手立ても無ぇって言う二重苦。
だから、『盗まれて、勝手に改造されたのでしょう』とかって、皇国に強く言われれば、それを否定する手段が無いんだよな。
「向こうの態度とか見る限りこっちを謀ってるって事は無いとは思うんだが……」
「……あの皇女様からは、わたしたちをだます様な感情は感じませんでしたよ?」
「生真面目だよねぇ、疲れないのかな? マジメ乙」
ティネッツエちゃんとラミアーの言葉に、俺も同意する。ちょっとばっかし、皇族としては繕い切れてない辺りがなぁ。あれで15才。つまりは一応成人してるってぇ事に成る。でもまぁ、前世でのJCからJK位って考えれば、大人びてる方だと思うけどさ。
てか、ラミアーはもうちょっと真面目に生きなさい。今も俺の背中から頭に顎乗せて、だら~んとしてやがるが。
「真面目に『とーるとどうやったら番えるか』考えてるよぉ」
『あ! それならじぶんもぉ』
取り敢えず、そっちには真面目に成らんでよし。おまいら二人共に!!
「むぅ!」
『いけずぅ!』
本能で動いてるコイツ等には、そっち方面の遠慮も恥じらいも無いんかね? 俺としてはあんまり開けっ広げなんは、若干引くんじゃが?
「むぅ、作戦変更の必要ありだよぉ!!」
『これでおわったとおもうなよぉ!!』
どんな捨て台詞!? パタパタと離れて行ったラミアーとセフィだが、あの扉は寝室に繋がるヤツだ。きっとベッドでゴロゴロしに行ったんだろう。野生児だし、二人とも。
さてさて、積極的防止が出来ないなら対処法でこなして行くしかあんめぇさね。つまりは現状維持。本当は自分達で調べられるだけ調べて納得して貰えれば良いんだろうけんどもさ。
皇国が、来訪の内容をごまかしている以上、『実は“神器”探しに来たんですよね? でも、家の国にはないですんで好きなだけ探してください』とかって唐突に言い始めたとしても疑われこそすれ、納得なんざしないだろう。それこそ最初から知っていて、証拠を始末し終えたから掌を広げてきたってな様にしか見えんからな。
なら、今のまま自分達が納得するまで探して貰って、こっちは適度にディフェンスしている方が何ぼかマシなんだわ。ルーガルー翁達には骨を折って貰う事に成るが。
結局、人間って、自分で調べたんだって思ってる事ってのはあんまり疑わんからな。
それよりも問題なんは、何か暗躍してる輩が要るっぽい所だよなぁ。
特に俺をピンポイントで狙い撃ちしてる様に動いてるのが。
何か色々と周辺諸国で、俺に対する悪意ある噂をばらまいてるらしい人物。それ以前はあんまりなかったから、それ以降でって事だろう。つまりは、俺が【邪竜】を討伐した辺りからなぁ。
多分だが、その事が、相手にこっちを脅威だと知らしめる切欠になったんじゃないかと、俺は睨んでいる。
そもそも、あの国の貴族だったガープを魔人族から魔族に堕としたのは誰だ?
確かに、【加護】そのものは邪神によるものだろうさ。だが、邪神の【加護】を得るのは珍しい事の筈だ。早々見ないって話なんだし。魔族。
その上で、バフォメットとゴモリーを魔人族の国へと行く様に促したのは誰だ?
そもそも、あの二柱がいなけりゃ。あの作戦は決行できなかっただろうさ。
『【疑念】マスター、もしかして?』
「たぶんな、居るんだろうさ。この企みの後ろに、魔族が」




