その辺の事情
「トール卿の普段の仕事が見てみたいのだが?」
何言ってんだ? この姫様。普段っつったら、俺、王都に居ないんじゃが? 辺境伯って言う爵位の立ち位置分ってないのかね?
『【進言】マスターの領地に行ってみたいと言う、遠回しの要求なのでは?』
……え、そういう事なん? ちょっとばっかしネガティブなイメージがあるせいか、なんとなく言動に対する反発心が出てるんかも知れん。反省反省。言葉の裏ばっかり気にしててもしょうがないし、あんまり色眼鏡で見てたらあかんよね?
「えーと、それは一度、私の領を視察してみたいと言う意味でしょうか?」
「うん? いや、領地まで行かずとも、もう少しトール卿の飾らぬ姿が見てみたいと思ったのだが……」
ちょっと、おじさん理解できなくなって来たよ? つまり、俺の素の姿が見たいって事かね? それはそれで意味不明なんじゃが。ぶっちゃけ見てどうするって言う。
俺はまぁ、それほど親しいって訳でもない国の貴族で、姫さんは大国の姫じゃん? そもそも生まれからして心理的にも物理的にも距離があるのよね。
つまりは越えられない壁が存在してる訳だ。
そんな状態で『素の姿を見て見たい』とか無理に決まってるんじゃんよ。
いや、本格的に何考えてんのか分かんなくなって来たわ。
皇国の表敬訪問使節団がこの国に着いてから一週間程が経っている。その間、皇国側からは下手な動きってのは表面上、全くない。
まぁ、裏では結構バチバチらしいんだがね。ルーガルー翁によると。お互いの情報を収集する、それを阻止するって事で、結構やりあってるらしい。
血こそは見えないが、激しい暗闘を繰り広げてるって訳だ。
その事自体は、この姫さんも把握してると思うんだがね? 本当に何考えてるんだか。
そんな事を態々愚痴りに来てたんよ。俺に。ルーガルー翁はルーガルー翁で何考えてるんだろうね?
あ、ルールールーは領地の方にいる。件のハティもなぁ。
ハティ他2名は、基本マンガ要員なんで、デッサンやら、技術磨きやら、後、騎士団の連中に頼んで色んな場所の風景を見てもらったりしてる。
俺が、こっち来てる関係上、マンガの方は進められんからなぁ。
……あれ? もしかしてリーリン妃殿下が、普段のって、言ってるのはソレの事の方か? いや、だとしても家の領地にまではいかなくても構わんらしいし……やっぱ謎だわ。
そもそも、彼女達があのマンガを見たのかどうか不明だしな。外にはまだ流通してないし、まだ、家の領地ってか領主館の中か王族の一部しか見れてない代物だから。
国王様も、自国の信頼できる貴族以外には、まだ見せる気は無いっぽいからな。
もうちょっと、本の量産を進めて、アドバンテージを取りたいっぽいし。
マンガの事もさる事ながら、本を作るのに使ってる印刷技術とかとか。
そもそも、家の領ではもはや当たり前のように使ってるが、印刷する技術ってのは、凄い革命なんよね。
本来ならすべて手書きで行わなきゃいけない本の増産を工業的に出来るって言うか、全くの最初から増産した状態で行えるって事自体がなぁ。
前世だと、それこそ溢れる程に印刷物なんかはあったけど、この世界では、紙そのものも含めて、それを束にしてる本なんてのは結構な高級品な訳だ。全てが手書きでの、写本って状態じゃないと増やす事の出来ない事情も含めて。
あれ? もしかして俺って、現状で結構危うい事情抱えてないか?




