三人寄らずともかしましい
バフォメットが去って行ったのを確認し、俺は脱力する。
いや、ホント、何なん? アイツ!!
まぁ、助かったのも事実だけどさ。
と言うか、【恐怖】だったか? もしかして俺の身体能力向上同様のパッシブスキルか何かなんじゃろか? アイツの異様な雰囲気は、それのせいなのかね。
まぁ、俺の方は制御できる様になったんで、アクティブスキルに成ってるけどな!!
イブとエリスを見れば、冷や汗を流しながら、グッタリとしている。
もしかすると、腰が抜けているのかもしれない。
「大丈夫か?」
二人にそう声を掛けると、イブがやおら立ち上がり、俺をギュッと抱きしめた。それに対しギョッとしたのはエリスだ。
「あ~~!! オヌシ!! 何をしておるのじゃ!!」
エリスが声を荒げるが、イブは更に抱きしめる力を強める。小刻みに震えているのは恐怖からなのか不安からなのか。
「イブ?」
「トール、さま、また、むちゃ、して」
本意では無かったんやで? 遭遇戦だったし。とは言え、無茶をしたのは確かだ。思わず新技開発できちゃうくらいにギリギリだった。
挙句、まだ有効な対抗手段の開発は出来ていないと言う。
強いて言えば、聖斧くらいか? しかしそれも、エリスに渡さねばならんアイテムだしなぁ。
「すまん」
それだけ言う俺に、イブは顔を顰めた。おそらく、「もう無茶はしない」なんて言えないという事を正しく理解しているからだろう。
いや、だって、俺が無茶をしたく無くたって、バフォメットはこっちをライバル認定してるんだぜ? 俺だって思考がアレな山羊頭のライバルなんていらねぇよ!! せめて美形か仮面にしてくれよ!! 確かに山羊頭のくせにイケボだが!!
うん、無茶をし続けてる自覚は有るんだよ。自覚は。
ただ、無茶をしなけりゃ生活が成り立ちませんからっ!!!!
うん、ごめん。だからと言ってイブを心配させて良いって事には成らないよな。
俺は嘆息するとイブの頭を撫でる事しか出来なかった。
******
「わたし、も、いく」
「ダメなのじゃ!! 危険なのじゃ!!」
現状の事情を説明すれば、イブがそう言う事は分かってたさね。
だが同時にエリスが反対するだろう事もな。
正直言って、この件に関しちゃイブは部外者だ。だが、俺の関係者でもある。確かに戦わせるって事はしたくは無いが、探索に付いて来るぐらいは許してやりたい。
第一、すでにここまで来てるのに、こっから「帰れ」とも言いずらいしなぁ。
「なぁエリス」
「何じゃ? オヌシ様」
? 様付け? 何でだ? まぁ、とりあえず置いとくか。それよりも話の方が先だ。
「確かに、イブはお前の事情には関係ないだろうが、俺にとっては大切な家族なんだよ」
「!!」
「とーる、さまっ!!」
「か、家族とはどう言う事じゃ? ま、まさか、結婚しておるのか!?」
食いつく所そこ!? ってか、幼児相手に、なぜ結婚してるって話に成るのか!?
「いや、別に結婚してる訳じゃないが、イブは俺にとって義妹とか義娘みたいなもんなんだよ」
……いや、イブさん、何でお前が落胆したような顔になる。そしてエリス、お前が勝ち誇った様な顔に成るのも何でだ? そしてミカ、飛び掛って来そうなバラキを押さえてくれてありがとう。
「ふむ、オヌシ様が、そこまで言うのであれば、付いて来ても構わんのじゃ」
「!!」
フフンッて表情でそう言うエリス。瞬間、ムッとした表情になるイブ。
「そうか、有難う」
イブ、止めれ。その振り上げた拳を下ろせ。せっかく話が纏りかかってるんだから。
そしてエリス。どう見てもお前の方が倍近く年上なんだから、4歳児を煽るな。
てか、バラキ、確かに話は終わったし、暇なのは分かるが空気を読んでくれんか? 犬に圧し掛かられながら、高笑いするゴスロリ少女に殴りかかろうとしてる幼女を押さえる幼児ってカオスにも程がある事に成ってるからな!!
ミカ、大丈夫だ。お前の事は別に怒ってないから、そんな申し訳無さそうな顔をするな。うん。
てか、何で俺がこんなに気を使ってるんだ? ただの協力者の筈だよな?
******
「【探査】」
イブから音の波が広がり、その反射で周囲の状況を確認する。風と身体強化の複合魔法【探査】。
……いや、これ考えたの俺なんだけどなぁ。
元々、身体強化によって五感を強化して周囲の情報を集めるって魔法はあるんよ。魔法のソレは俺は使えんが……
そもそも身体能力向上がデフォルトだから悔しくなんて無いですぅ!! ごめん、強がった。魔法……使いたかとです。
俺の身体能力向上と、魔法の身体強化は、効果こそ似ているが、似て非なる物らしい。俺の方は魔力をつぎ込む事で強化具合をコントロールできるが、魔法の方は一定数値での強化にしかならない。まぁ、固定値で能力が上がるってこった。
で、最も違うところは、身体強化の魔法では身体が赤く染まる事は無いって事だがな!!
でも、イブは、身体が赤く染まらなかった事で、「ちがう」とかって落ち込んでいた。うんまぁ、逞しく生きれ。
さて、話を戻すが、身体強化での聴力強化による周囲の探索を一歩進めて、風魔法を併用しての超音波探査ができんじゃろか? って思ったんよ。音にしたって風にしたって空気が動いて起こってるってのには違いないしな。そしたらイブさん、割とあっさりと習得できてしまった訳だ。
概念教えてしばらく魔力制御してたと思ったら「ん、できた」って……っぱねぇっす。イブさんマジ天才。
で、こうして、エリスに抱えられて上空から渓谷を探査してる訳なんだが……
「どうじゃ? 何か分からぬのか? 割と他の者を抱えて飛ぶのはキッツイのじゃが……あ、オヌシ様は別じゃぞ? むしろそのままダッコし続けたい位じゃ」
だから4歳児を煽るなと。今、自分達は、俺をダッコするイブを抱きかかえて空を飛ぶエリスと言う親亀子亀孫亀状態に。
魔法の性質上、途中に障害物があると、その向こう側は探査出来んからね。いや、俺を抱きかかえる必要は無いと思うんだが、イブ曰く「この、ほうが、しゅうちゅう、できる」そうなんよ。ホントかよ。
「ん、わかった」
「ホントか!?」
「ん」
鼻をフンスと鳴らしながら力強く頷くイブ。「で、どこなのじゃ?」って言うエリスの言葉に、イブが一つの亀裂の様な谷を指し示した。
「良し、イブのおかげで無駄な時間が短縮できたな」
俺の言葉に渾身のドヤ顔をするイブ。そんなイブの事が気に食わないのか、口を尖らせながらエリスが疑問を呈する。
「本当にあそこに在るかは、まだ分からんのじゃがな」
いや、だから4歳児を煽るなってばよ。




