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物語を流布させる冴えたやり方

「読ませてもらった」


 何かもはや、“いつもの”ってぇ枕詞が付きそうな感じの、王城の応接室に通された俺は、開口一番、国王様(セルヴィスおじさん)に、そう言われた。

 彼が手に持ってるのは、俺が描いたマンガのソレ。うん。まぁ、提出してるよな。ルーガルー翁的には。

 てか、こっちのほうでの話かよ! 俺の噂話の報告を聞いた後だったから、そっち関係かと身構えっちまったじゃねぇかよ!!

 いや、マンガ(こっち)の方はマンガ(こっち)の方で面倒臭ぇ雰囲気ぷんぷんなんだがよ。


「凄いな! こんなに読みやすい物語は初めて見た!!」

「あ、はい」


 まぁ、そうだろうさね。マンガってのは、その絵だけで直感的に理解しやすいからな。それこそ、『百聞は一見に如かず』って言葉があるくらいだし。まぁ、マンガで読んだ事と、実際に見たって事を混同するのも間違ってるが、それでも伝聞やら文章だけ読むのと比べれば、理解しやすさと言った意味では上だろう。深く、細かく理解できるのは文章の方が良い気がするが。いや、それも書き手によるか。


 てか、読めるんだ? ファティマ達は『作法が』とか言ってたが、あれか?ルーガルー翁がやったのか? 読み聞かせ。

 チョーウケルんですけど。


 とか失礼なことを考えていたら、国王様が、じっと俺を見ていた。

 なんざんしょ?


「『分かりやすい物語』と言うだけで、かなりの価値がある、と言う事は分かっていると思うが……」


 まぁ、そうだよな。情報を伝達するって事だけでも“分かりやすさ”ってのは重要な事だ。

 だが、国王様はあえて『分かりやすい物語』と言った。それは、寓話であったり伝説伝承であったり、時には為政者の偉業の話であったり、そう言った物の事だろうし、それを()()伝える手段って言う意味でもある。


 特に市井には、そう言った物を広めるのは割と重要だったりする。自分達の上に立つ人間が素晴らしい人物だと言われれば、それは、市民感情的にプラスになるからだ。

 そう言った事に多少なりとプライドを持って貰えれば、少々の不満は飲み込んでくれるもんだしな。


 その事に理解をせず、単純に自分の地位が上だからと、それだけで偉いんだから傅かれて当然とかって思ってる貴族連中もいるけど、評判ってのはバカに出来ないんよね。


 だからこそ、その重要性に気が付いてる輩何かは、噂をばらまく情報網を整備してるし、演劇で自身の物語を上演させてみたり、吟遊詩人(バード)に、自分の偉業を詠わせたりする訳だ。


 ただなぁ、結局マンガは文字が読める相手向けだ。最低でも、読み書きが出来なけりゃ話にならない。実際、吟遊詩人の方が物語を広めるってぇ事に関しちゃ優秀だろう、まぁ、小説の類よりかは敷居は低そうだけども。


「しかしだな、酷いではないか?」

「はい?」


 酷いって何が? 思わず素っ頓狂な声が出る。国王様に進言もせず、こうして新しい物語を広められる形式を作り出した事か? ただなぁ、これって、前世で当たり前に享受してた事で、今回に関しちゃ『イブが話を覚えるのは、こっちの方がやりやすいだろう』って位の気持ちでやっただけだし、そんなに大量に作るって事は前提にしてなかったんだがなぁ。


「我が国の建国話は、この様に本にはしてくれんのか?」


 そっちかよ。

 俺が嘆息したのを見た国王様が心外だとばかりに方眉を上げる。


「余所の国より、我が国の方を優先させてくれても良いと思うのだが? 特に建国の話に関しては、おぬしにもその血が流れておるのだぞ?」


 あぁ、そう言や、そうだったわ。そもそも国王様は、俺がエスパーデル公爵の実子だって事は分かってて、建前の方を通させててくれてるんだったわ。こん畜生、ルーガルー翁は絶対後で泣かしちゃる。


「つまり、この国の建国記も本として作ってくれ、と」


 溜め息を吐きながら言った俺の言葉に、無言のまま国王様(セルヴィスおじさん)は、にんまりと笑みを浮かべた。

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