流石のコンテンツと噂話
23/04/15 話を少し修正しました。
ただし、その事によって、話の展開が変わることはありません。
「ねぇねぇ! トール様!! 次は!? 次のは!?」
わらわらと屋敷の子供共が執務室に詰め掛けてくる。今まで執務の邪魔はせんかった皆が、こうなるとは……何の話かといえば、まぁマンガの話なんだがね。
あの後、あの場に居た4人以外にも読み聞かせを行ったらこうなった。
流石、前世でも、世界中を魅了して止まなかった一大コンテツだ。異世界でも、その魅力は衰えないらしいわ。
「作ってる途中だから、大人しく待ってろ。もしくは自分で描け」
「「「ええ~~!!!!」」」
一回描きさえしちまえば、後は量産出来るんだがなぁ。本だけは。
お話そのものは俺が描かにゃ増えんからな。
ぶっちゃけ、どこぞのシンギュラリってる疑惑のあるAI搭載してそうな聖武器の方とかが描いてくれねぇかとか思ってるんだが。
正直、俺、忙しいのよ色々と。
『【謝罪】過去の情報を収集し、それらしく並べ立てる事は出来ますが。完全なる創作活動は、正直致しかねます』
えー、そう言う物? すでに自我を確立してるっぽいし、出来ない事は無いと思うんじゃが?
『【苦笑】あくまで出来るのは、過去有ったものの情報をベースにそれらしく設える事だけですし、無から有を想像し得るのは、人間と言う種だけの特性ですから。そういう意味ででっち上げる事は出来なくはないのですが、そもそも、今しがた出来上がったばかりのマンガと言う文化については、参照できる程の情報がありません』
……その理屈で言えば、既に有る物語をマンガへと仕立て直す事は出来そうなんじゃがね。ただなぁ、そう言や、この世界じゃ、俺がマンガの先駆者って事に成るのか……つまり、参照できる位には情報を蓄積させにゃならん、と。俺が。うわ、面倒臭ぇ。
これはあれだな、なるべく早く後継者を作らないとだな。執務や訓練を継続しながら描けるほど、マンガは甘くないからなぁ。
なるべく早めに、『トール先生の次回作にご期待ください』って事に成れる様にせんといかんわ。
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執務室でルールールーから聞いた話に、思わず眉間のしわが寄る。
今回ルールールーからもたらされたのは、獣人の王国の情報で、まぁ、噂についての話な訳なんだが。
「ふ~ん。俺が『赤銅色のゴブリンライダー』だと」
向こうの冒険者連中に、そんな噂が蔓延していたらしい。もっとも、それは『褐色のトールって冒険者が『赤銅色のゴブリンライダー』だ』って位のものだったらしいんだがね。
まぁ、ぶっちゃけ、それ自体は間違いじゃねぇんだけど、ただしここに掛かってくる『赤銅色のゴブリンライダー』ってのは、ヴィロウズが率いてた犯罪者集団の方の事な訳なんだわ。
そっちに関しちゃ、ぶっ潰したのは俺だけど、その犯罪行為については俺が関与出来る訳がない。その噂が出回ってる辺り、俺は森の方に住んでたからな。
確かに『赤銅色のゴブリンライダー』の噂の、もっとも最初の原因は俺だ。ただ、それは犬に跨った赤銅色の赤ん坊が俺だったってだけで、その姿を見た人達が、犬に跨る俺の事を指して、『赤銅色のゴブリンライダー』だと、噂を始めたってだけの話な訳なんだわ。
ただ問題は、そんな都市伝説に目を付けたヴィロウズが、『赤銅色のゴブリンライダー』と言う存在を隠れ蓑にして、様々な犯罪活動を始めやがったから、紛らわしい事に成ったんだがね。
だとすると……
「ヴォルフガングとやらが目の敵にしてるのはヴィロウズの方の『赤銅色のゴブリンライダー』って事か」
「そのようです」
ヴィロウズ達が、どれ程の規模で犯罪を犯していたのかは、俺は分からない。ただ、人身売買を行っていた際、その伝手が国外にも有ったってのは確認が取れてる。そして、ある程度の上位貴族の関与も、だ。
実際、ヴィロウズを逮捕した後、トカゲの尻尾切なのか、幾人かの下位貴族も捕まってるからな。
つまりは、それ関連での恨みを買ってる、と。ヴィロウズの方のが、だが。
うわぁ、面倒臭ぇ。微妙に係ってる辺りが、特に。
「まぁ、今の所、どうしてみようもないなぁ。報告アリガト。下がって良いよ」
「あの、それともう一つ……」
ちょっと困惑した風に俺を見るルールールー。何かやな予感。
「国王陛下から、登城するようにと……」
マジか。




