予想もしてなかったらしい。当たり前だが
色々と考えていたら、遅くなってしまいました。
申し訳ありません。
「そもそも、話を鑑みるに、セネスさんは、誰かから世話役として付けられたんじゃねぇの? それを勝手に解雇するのって、不味くねぇか?」
「それはそうなのですが……」
『むぅ』って感じで、聖女様が言い淀む。やっぱり、お偉いさんから付けられたクチか。
それだと色々、扱いに困るよなぁ。下手に蔑ろにしたら、そのお偉いさんの面子潰す事になるし。
それはそうと、そろそろセネスさんも五体投地礼は止めてくんねぇかね? いくら宿の中だって言ってもさぁ。突然入ってくるヤツも居ないだろうが、何かやり辛いし。
「主様がそうおっしゃるなら」
何か不承不承な感じでセネスさんが立ち上がる。いや、ちょっとこの人の感性が分からんのだが。
『【共感】至高の主に傅き、その栄光に額を付けると言うのは、とても甘美なのデス』
「止めて、本気で止めて、そう言うの。なんか怖いから」
何か不穏当なこと言い始めたジャンヌに、聖女様ドン引きしてるからね? いや、逆にセネスさんはコクコクと頷いてるけど。
「要は、俺に完全服従してる状態で側に居られるって事が不安って事だろう?」
「いえ、トールさんは恩人ではあるので……」
そこで言いよどむって事はつまりはそう言う事だ。恩人だって言ったって、全面的に信用なんざ出来んだろうさ。
特に魔物の群れを瞬殺できるほどの戦闘力を有してる相手なんだし。人柄が良く分かっては居ない状態で、そんな圧倒的強者を相手にすれば、不安になるのは仕方ない。
知らないって事は、その思考が読めないって事だし、そうなれば、その暴力がいつ自分たちの方に向かうかなんて事が分からないからな。
この状況で『恩人だから』って、全面的に信用しちまう様な脳内お花畑じゃなかったってだけでも、この聖女さんが“まとも”だって事が良く分かる。
果たしてコレが、安心材料になるかどうかは分からんが、『俺』って言う人間がどう言った存在なのかってぇ証明にはなるし、もしもって時に連絡を入れられるってだけでも、多少の保険にはなるだろうさね。
本当なら、こんな所で、身バレする様な事は避けたかったんだが、どの道、冒険者ギルドの連中にはバレてるみたいだし、アイツらの裏で色々と工作してくれてる連中にもバレてるんだろうから、今更ではあるんだよな。
そもそも“扉”で、この国に入ってきてる時点で、俺と言う個人を特定できる可能性ってのは限りなく低い筈なんだ、にも拘らず、俺を特定できてるってぇ事は、随分とあちこち遠くにまで届く“手”を持っているって事の証左でもある。
まぁ、それは兎も角、不安を持って居ようと恩義を感じていると言う事で、こっちの事を詮索しない程度には義に厚いのであれば、こっちから口止めをすれば、早々口に出すと言う事もないだろう。
「さて、此方としても、セネスさんを連れまわすって訳にゃいかんのよ。だから、だ、彼女が何かをやらかした場合は、俺が責任を持つってぇ事で、納めて貰えんか?」
「しかしそれは……」
不安そうに口を開いた聖女様に、俺は懐から、国王に貰った短剣を出し、それを見せる。
「そ、その紋章は!!」
流石に隣の大陸だけあって、知ってる人は知ってるみたいだな。驚きに目を見開く聖女様達に向かい、俺はニヤリと笑って口を開く。
「ああ、私は、デストネーチェ王国家臣、オーサキ辺境伯爵領領主、トール・オーサキ辺境伯だ。改めまして、お見知りおきを聖女殿」




