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きちゃった

 何が足りないのか、あの時程の魔力の圧縮ができない。

 それでも今の俺の身体はマグマの様な灼熱の魔力装甲に覆われた状態にまでなっていた。ミカ達の方はそれでも何とか凌いでいる様だったが、体力の低いバラキとセアルティの動きが若干悪くなっている。


「オヌシ!! その姿は!!」


 エリスが何か叫んでいるが、その疑問に答えてやれるほどの余裕も今は無い。バフォメットとの戦闘からそれ程経っていない事も有って、俺の魔力庫の残り魔力は3割が良いとこだ。

 つまりは、魔力庫に溜め込んでいた魔力すら注ぎ込んでやっと成立する魔力装甲のリミットも、それ程長くは無いって事に成る。戦闘をするには、それも負けない為には、これ以上の時間は掛けられないって事だ。

 不完全だろうと、これで何とかするしかない。


 決意を決めて天を仰ぐ。空中で、自分達をお互いに弾き飛ばしての連携でガープを翻弄するミカ(いぬ)達が目に映る。空中戦をする犬って何だろうか? これが本当のドッグファイトってか? フッと笑みが零れ、肩の力が抜けた俺は、地面を蹴ると、ガープに躍りかかった。

 ミカ達に翻弄されていたガープだったが、それでもこちらの攻撃に気が付き、空中で体を捻って何とか腕で受け止める。


「こんっ畜生がぁ!!」

「なめるな!! 下等生物!!」


 ゴキイイイィィィィィンッッッッッ!!


 結果は派手な相殺。攻撃が接触した事で起きた衝撃で、諸共二人が吹き飛ぶ。

 だが、上方へと飛ばされたガープも下方へ飛ばされた俺も、当然の様に態勢を整え再度激突。


 二度三度とお互いに拳を交え、蹴りを交わし、吹き飛んでは反転しぶつかり合う。

 やはりコイツ、バフォメットよりは強くはない。だが、今の俺も完全に魔力装甲を使いこなせていない上、こうまで互角だと、一撃ごとにゴリゴリと魔力を持って行かれる俺の方が若干不利かも知れない。


 激突する毎に金属同士がぶつかった様な音を立て、その衝撃が周囲に撒き散らされる。

 流石にミカ達もこの間に割って入る事ができずにいるが、むしろエリスが被害を受けない様に彼女を守ってくれている。

 まったく、気の利いた家族達だ!


 だが、ジリ貧なのも確だ。決定力を持たない俺の攻撃じゃ、大きくダメージを与える事ができない。

 せめて、少しでも魔力を溜めて攻撃ができるか、魔力装甲時でも、魔力外装時と同じ様に流動させる事ができればまた違ったかもしれないが。


 あれ? バフォメットとの最後の対峙時は、魔力装甲にまで圧縮されてたんだよな。少なくとも、一撃が入った後の時点では、魔力は“外装”から“装甲”へと変化していた。

 つまりはあの時は、魔力の高速流動はしていなかった事に成る。ならなぜ、バフォメットの腕を消し飛ばす程の攻撃ができたんだ?


「おい!! オヌシ!!」

「あっ」


 しまった!! 戦闘中だと言うのに気を取られてた!!


「フハハハハハハハハハハハハ!!!!!! 潰れろ!! 下等生物!!!!」


 魔力装甲で攻撃を受ければ即死は免れる。だが、即時に動けるかどうかは分からない。第一、そんな隙をコイツが見逃す訳も無い。

 そうなれば、ミカ達がどう出るか。逃げてくれれば幸い。下手に俺を護ろうとなんてしちまったら……


「クソッ!!」


 慌てて腕をクロスする。だが、吹き飛ばされるのは覚悟しなけりゃいけない。


 と、そう思っていた時だった。


「は?」

「なっ!!」


 突然、炎が降り注ぎ、ガープの身体がソレに包まれる。

 何が起こった!? いや、考えるのは後だ!!

 俺は、現状でのありったけの魔力を拳につぎ込むと、()()()()()()()、ガープの腹に、ソレを突き入れた。


 ドンツツツッッッ!!


 低い音が響き、ガープの身体が『く』の字どころか『つ』の字に曲がって吹っ飛ぶ。


 地面に降り立つと、俺は途端に膝から崩れ落ちる。この倦怠感、魔力枯渇か。

 魔力装甲どころかブースト、アドアップ、身体能力向上までもが解除され、汗が噴き出す。俺は四つん這いの格好で、荒い息を繰り返した。


 手ごたえはあった。だが、倒し切れているかは分からない。成り経てとは言えガープも魔族だ。バフォメットの様に瞬間再生ができてもおかしくはない。

 とりあえず、今の内に隠れるのが吉か?


「そうだ、あの炎は?」


 「お前の仕業か?」と振り返ってエリスを見るが、首をブンブンと振られた。と、不吉な気配にブワリ、と肌が泡立つ。

 視界に影が差し、俺は油の切れたブリキの玩具の様に首を上げた。


「トール、さま」

「……イ、イブ、さん?」


 そこには眉間に皴を寄せたイブが仁王立ちしていた。


 ******


 合流したラファとミカ達がお互いの匂いを嗅ぎまくっている。そうか、イブを連れて来たの(げんきょう)はラファ、お前か。


「トール、さま、また、あぶない、こと、して」

「……」


 俺を抱きしめたイブが、ボロボロと涙を流しながら、嗚咽交じりに怒りをぶつけてくる。

 まぁ、「しばらく戻れない」なんて伝言をして来た挙句、心配で探してみれば、何かピンチっぽい事に成ってたとなれば、こうもなるよな。

 しかし、良く一目で俺だと分かった物だ。


 だがイブさんや、俺、一応冒険者なんよ? まぁ幼児だが。


 いや、それよりも。


「イブ、話はちゃんと聞くから、今はここから離れないと」

「?」


 ガープがいつ戻ってくるか分からないってのもそうだが、何かエリスの視線が痛い。


「そ、そうじゃの、今は運よく退けられたが、いつガープが戻って来るか分からんのじゃ!!」

「だれ?」


 まるで今気付いたとばかりに、イブが何故かエリスにジト目を送る。

 それに何かを感じたのかエリスの方も何かイブを睨み返している。


 あ~うん。そうだった。イブとエリス、これが初顔合わせじゃん。

 てか、何で初めて顔付合わせたのに、お互いピリピリしてんの?

 何で二人してタイガーとドラゴン背負ってんの?


 いや、ホント何で?

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