いや、折るよ当たり前っしょ?
聖女様を無事に送り届けて、彼女の実家からお礼状を貰ってのリターン。まぁ、お届け印みたいな物だな。
別れ際に『もし何かあれば訪ねてください』とのお言葉を貰ったけど、俺達が再び獣人の王国に来るってぇ未来が有るやら無いやら。
送り届けてる途中で、ホブゴブリンに再び遭遇したんだが、その時は犬達が瞬殺。その様子に聖女様含め獣人の皆さん目を丸くしてたわ。
アレだね、ホブとか付いててもゴブリンはゴブリンってぇ事かね。いやだから、ゴブリンだって言ったって、一対一だと普通の人間じゃぁ勝てやしないんだってばよ。そこは流石に野生の霊長類。人間なんかより小柄なのにも拘らず、素早いは力は強いは。
獣人でようやっと拮抗できるレベルじゃねぇかなぁ。あれ。つまりホブ野郎は、一般獣人より、ちょっと、強い。
聖女様にゃぁ、こっちの必要以上の詳しいプロフィールとかは教えなかった。その必要もないし、向こうも聞いては来なかったし。
せいぜい冒険者だと名乗った上で、ギルドを通さない依頼は受けられないって話と、今、ギルドに行っても俺の話は通じないだろうって事だけ。
それでも、『実家の力を使えば』みたいな事を言ってたけど、むしろそう言った輩との間って、権力が割って入った方が拗れるんで固辞しといた。むしろ会いたくないし。面倒臭せぇ。
って事で、残してきた護衛騎士及び侍女さん達にお礼状を見せてお仕事完了を確認して貰った。実際は金貰ってる訳じゃないこっちの好意でやってる事だけど。
護衛騎士さん達は、ホブゴブリンが襲ってきた場所から一番近い街に滞在して貰ってる。どの道馬車と馬いなきゃ動けんのだし。
「で、どんな感じ?」
聖女さん送る時に説得に協力して貰った騎士さんに尋ねると、苦笑を返された。
案内された部屋を開けると、件の侍女さんが、ケガしない様に柔らかい布地で両手両足を縛られた上にギャグボール嚙まされた状態で転がってる。
うん。彼女はこの状態で放置させて貰った。ただしギャグボールは即興で作って取り敢えず飲み物だけは飲める状態にして、野菜中心のスムージーのレシピを渡しといたし、オムツも締めて貰ってる。つまりは完全介護仕様。
その上でお世話は別の侍女さんに。
年嵩の侍女さん……セネスさんだったっけ? は、もう、こっちに抵抗する気力も無い様にぐったりして死んだ魚の目をしてるわ。まぁ、状況的に当たり前だろうけど。
介護を受けるってのは、結構心にくるらしいのよ。特に女性は。意識がはっきりしてるならなおさらなぁ。
実際、前世でも介護されるようになって、一気に老け込む人とか居たらしいし。特に彼女みたいな自意識高い系の女性は。
本来獣人ってのは物理的に強い相手には敬愛の情を抱きやすい種族らしく、それに抗うほどの何かがない限りは、強さを見せつけた相手には従い易いらしい。護衛騎士さんと他の侍女さん達が、俺に素直に従ってくれてるのは、そう言った背景があるからだろう。
そういう意味では、セネスさん、結構な精神力だったみたいだぁね。
そもそも、セネスさん、先代、先々代の聖女様にもお仕えした事があるらしく、筆頭侍女的な立場に収まって、その上で『先代は』『先々代は』とかって、何かにつけて今代の聖女様を批判していたんで、彼女の下位に居た侍女からは、すこぶる評判が悪かったらしい。
そんな感じで、他の侍女さん、素直に手伝ってくれたわ。人望って大切だよね。




