それでも妥協点を見出す事も出来る
実力至上主義らしい獣人種で、圧倒的な力の差を見てるにも関わらず、こうして俺達にギャンギャン言える時点で、もしかしたら肝は据わってるのかもしれんけど、だからと言って、好意的に成れるかと言われればそんな事はない。
そもそも聖職者に仕えてるからか何なのか、こっちを下賤だとか不浄だとか、がなり立ててる時点で『相容れねぇ』とか思うんよ。
恐らく、彼女の中じゃ、自分達の方が何らかのステージ的に上で、下位に居る俺達は、無条件で従わないといけない的な何かが有るんかも知れんが、そんなもん、こっちは知ったこっちゃねぇってのが、俺の偽らざる本音だ。
「そんだけ元気なら、問題ないだろ。こっちも暇じゃないんで、行かせてもらうよ? じゃあね!」
「ま、待ちなさい!! セルエルム アダルメネヘトス マタルフェ……」
「セネスさん!!」
何だよ。面倒臭い。俺達に向かって攻撃魔法の呪文を唱えだした侍女さんの暴挙に、聖女様が悲鳴をあげて止めようとするけど、その行動は護衛の騎士によって遮られる。
まぁ、今、侍女さんに近寄る方が危ないだろうしな。
「ジャンヌ!!」
『【了承】オッケーデス。【詠唱破棄】魔法名【リフレクション】』
侍女さんの放った光系の魔法らしきソレを、ジャンヌが跳ね返す。
【リフレクション】の魔法は、結構な実力差が無けりゃ、効果を発揮して反射までは出来ない魔法なんで、普通は使わないんだがね。
結果、ただ防御するだけって言う結果に成るなら、【マジックプロテクション】掛けたほうがコスパが良いからな。
つまり今は、それだけの実力差が有るって事だ。
跳ね返された魔法が自分の近くに着弾し、侍女さん、腰を抜かして尻餅をつく。
信じられないって様な顔でこっちを見るが、信じられん事してるんは、そっちだぞ、と。
なまじ自分が正しい事をしてるとかって思ってるせいか、自己肯定が激しいんよな、こういう輩って。
これ以上係わり合うのも面倒なんだが、ここで放置するのも何と無く気拙いと言うか、モヤる。特に聖女様が良い人っぽいから、なおの事。
聖女様の方には親切にしたいって気持ちはあるんだが、侍女さんとは係り合いに成りたくないって言う。
うおっ! だから頭で小突いてくるなやミカもバラキも!!
『【進言】マスターの納得の出来る行動をすれば良いかと』
「ん? トール、様、やりたい事、すれば、良い」
だな、変に悩む方が俺らしくないよな。獣人冒険者の件で、ちょっとネガティブになってたみたいだわ。
「馬車はやれないが、送る程度は出来る。ただ、全員って訳にゃいかんがな。それで良いなら、力は貸せる。どうする?」
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「この度は力をお貸しくださり、ありがとうございます」
キャンピングカーの中から、御者台に居る俺に聖女様が頭を下げた。今、キャンピングカーの中には聖女様と、あの年嵩の侍女さんとは別の侍女さん2人と、護衛の騎士が2人乗っている。御者台の俺はと言えば、左右にイブとティネッツエちゃん。背中には頭に顎を乗せるラミアー膝上にセフィと言う状態でケルブの手綱を握ってるってぇ感じ。ファティマとジャンヌはそのケルブにマウントされたってぇ状態な訳だ。
いくらキャンピングカーが広いと言ったって、流石に12人も乗れば狭いのは確かなんよね。犬達? いつもの様に周辺を走り回ってますが何か?
まぁ、結局の所、最小限の人員だけ王都まで送る事に成った訳だ。面倒ごとが嫌で王都から脱出したはずだったんだがなぁ。
まぁ、王都の近く迄でって事で話は付けたんだけどさ。近くまで行ったら、騎士の1人が聖女様のご実家に連絡入れて迎えに来るって事に成ったんよ。
まぁ、いろいろ考えて上での妥協点がこれだった。これが決まるまでにもひと悶着はあったけどね。主に件の侍女さんがなぁ。
それでも、聖女様が強く言い聞かせて、あの侍女さんは残る事に成った訳だ。多少、騎士達の説得(物理)も使ったがね。




