怪盗の定義って【神出鬼没】であることらしい
周囲にいる獣人の冒険者は15人ほど。強さ的にはそこそこだけど、ぶっちゃけ家の騎士団引き合いに出せば下から数えた方が早いくらい。
同じ冒険者で言えば『緑風の調べ』のパーティと戦ったら十五人の方が、瞬殺とまでは言わんが、軽くあしらわれる程度。いや、強いんだけどさ『緑風の調べ』。伊達にB級冒険者やってないって言うか。
何かジャンヌからの評価は低いけど。
けどここで手ぇ出しちまうと、恐らく通報の上勾留コース。何があったかここの獣人リーダー、何でかこっちの事目の敵にしてるっぽいし。初対面の筈なんだがなぁ。
この状態で問題なく脱出する為の最低条件が、俺達が手を出さずに包囲網から脱出するってぇウルトラCな訳だ。
こう、十重二十重に包囲網を敷かれてると、脱出しようにも出来ないってのが普通だろう。いや、実際は二重程度の包囲なんで、十重二十重は言い過ぎなんだが。
「むう!!」
いや、イブさんや、タクトを構えるのはやめなさい。遅延魔法で【ファイアボール】待機させるのも!!
ちょっと俺が狙われるとかって状況になると、途端に沸点低くなるなぁイブ。いや、それだけ心配かけてるって事なんだけどもさ。そこは反省せんとな。
取り敢えず、この状況をなんとかせんとか。ただ、身体能力で人間を凌駕する獣人に取り囲まれてるってぇ事自体で、実質、無難に誰にも手を出さず手を出させずの脱出は不可能って事になるんだがね。まぁ普通は。その上で市場って事で野次馬が多い。こんな場所で広域魔法なんか放ったら、それこそ地獄絵図に成っちまう。
それが分かってるからこその、向こうさんの余裕なんだろうさ。
「どうした? 今さらオレ達に手を出した事を後悔してるのか?」
ちょっと余所事を考えてたら、獣人少年がそんな事を言い出した。あぁ、こいつ等、自分達が捨て石兼囮だって事に気が付いてないのか?
こいつ等ならケガをしたって良い。むしろケガをしてくれた方が良いだとか思われてるだなんて、考えも……いや、そこまでは流石に穿ち過ぎか?
少なくともあの獣人リーダー、仲間を蔑ろにしてる様には見えなかったし。いくら、強さが正義の獣人でも、本気で暴力だけが取り柄の奴だったら、あそこまで慕われるって事もないだろうし、ましてや冒険者ギルドが忖度するって事もないだろうからなぁ……いや、多分、恐らく、きっと。うん。ちょっと自信はないんだが。
「お前らを捕まえる為なら、多少は怪我をさせてもいいって言われてるんだ。大人しく付いて来ないってんなら、腕の一本や二本、覚悟するんだな」
「いや、腕が無くなったら、普通に日常生活に支障が出るんだが? それ、保証してくれんの?」
「え? いや、それは……」
俺の言葉に獣人少年が口ごもる。まさか生活の保証しろとか言われるなんて思ってもみなかったんだろうな。
多分、普通に冒険者同士でのいざこざだと、打ち身やら切り傷程度だと、問題にするヤツなんか居ないから、そこまで意識が行かなかったんだろう。『腕の一本や二本~』なんてのも、常套句だろうし。
ただ、そもそも、他人ケガさせたら、いくら冒険者だからって言っても普通に捕まるからな? 俺みたいに相手からの被害届が出ない様に立ち回るなら兎も角。やるときゃ徹底的に折りますとも。心の底から。
「とにかく!! 大人しく付いて来いって言ってんだよ!!」
「だが、断る!!」
「は?」
俺は、そう言って三人を抱きかかえると、その場からジャンプをし、そのまま宙を駆ける。例え2次元的に取り囲んだとしたって、こうして空に逃げてしまえば、普通の冒険者は追って来る事すらできんのよ。
ましてや町中だ、早々矢なんざ放てんだろうし、ナイフなんかも一緒だ。そして魔法を放とうとか思っても、呪文が完了する前に、俺達はその効果範囲から逃げおおせる自信がある。
イブやジャンヌみたいに【詠唱破棄】できる魔法使いってのはレアなんだよな。ましてや獣人ってのは魔法は不得手な種族らしいし、むしろそれほどの魔法使いが居るなら、俺が見てみたい。
“町中”ってぇ【フィールド特性】は平等に効果を発揮するんよ。
「あ~ばよぉ!! とっつぁ~ん!!!!」
こうして俺達は、呆気にとられる獣人冒険者達をしり目に、その包囲網から、まんまと逃げおおせた訳なんよ。




