俺は関わっても良い結果は無いと思う訳で
事前情報なしに来てるからリサーチ不足は否めないが、だとしても社会的弱者の受け皿ってぇ側面もある冒険者ギルドで、準冒険者の制度がないって事があるのか?
『【嘆息】残念ながら、獣人的価値観では『弱いままで居る事は、その本人の責任だ』的な考えが主流でありますので』
……いや、その土地土地に根付いた価値観に文句を言ってもしょうがないだろうが、それって強者の言い分だよな。
強くなろうって決心したとしても、それが出来る環境がなければ、それも難しいんだがなぁ。
まぁ、それでも強くなろうってハングリー精神を発揮できるヤツは、どんな状態からでも這い上がろうとするんだけどな。ただし、ソレが出来るのは、ほんの一握りの強者だけなんだが。
『【説明】獣人は基本多産なのデス。オーナー達人間種は一度で、通常1人、最高でも2〜3人程度しか子を産まないデス。けど、獣人種は通常で4〜5人。最高10人程度を産むのデス』
あぁ成程、獣人ってぇ種族自体が、“産めよ増やせよ”より“より優秀な種を残す”って方の生存戦略に傾いてるって事か、なら、そう言った選択も有り得るのかも知れんな。
まぁ、んなこたぁ、どうでも良いんだが。
「で、結局、冒険者に案内を依頼しても受けて貰える事は無いということなんかね?」
ちらりと受付のおばちゃんの方に視線をやるが、彼女もどうしたら良いのか分からないと言った感じでワタワタとしてる。
うん? 結局の所、奥で偉そうにしているリーダーであろう獣人が、この辺りを取り仕切ってるって感じで良いのかね?
冒険者ギルドってのは独立独歩でおもねらないって思ってたのは俺の私見だった訳だ。
少なくとも、この獣人の王国においては強者におもねる、と。
「答えがないって事は、そう言う事だよな? ならしょうがない。邪魔したな」
「お、おい!!」
俺がそう言って踵を返すと、先んじて俺達を恫喝して来ていた若い獣人が、引き留めようとしたのかイブの肩に手を掛け様とした。
ゴッ!
鈍い音を立ててソイツが崩れ落ちる。
「人の家族を汚ねぇ手で触ろうとすんなや」
回し蹴りで顎先をかすめ、獣人の脳を揺らした俺は、崩れ落ちたソイツを見下した様に見下ろしながらそう言った。まぁ、本人には聞こえちゃ居ないだろうけどもさ。
そもそも依頼かけても受理されないんなら依頼するだけ無駄だし、だったらこっちに用なんざないんだ。にも拘らず呼び止めようとか何がしたいんだか。
おそらく、この中で俺の動きを見きれたのは、俺の家族以外だと、リーダー格の獣人だけだろうさ。他の奴等はポカンとしたままだし、何が起こったのかも理解出来ちゃ居ないんだろう。俺の力量の一端を見た為か、リーダー格の獣人が、こっちを憎々しげに睨んでいるが、正直知ったこっちゃない。
もう少し、この国やら周辺についての情報を集めたかったが、取り敢えず、冒険者ギルドや冒険者の連中は人間種に隔意があるって事が分かっただけでも良しとしとこう。
それはつまり、俺等が冒険者ギルドに依頼を出すのは危険だって事で、もし、この国に商隊を送る事があるなら、冒険者ギルドを使っちゃいけないって事でもある。
いつ寝首をかかれるか分らん護衛とか、堪ったもんじゃないからな。
結局、俺達が冒険者ギルドを出るまで、獣人達は誰も動こうとはしなかった。弱肉強食を謳う獣人の冒険者らしく、強い奴には手を出さないって事かね?
「はぁ、無駄な時間を過ごした」
「ご、御免なさい……わたしが冒険者ギルドに行かないんですかとか言っちゃったから……」
「ティネッツエちゃんは何も悪くはないだろう? 普通なら、情報集めとかは冒険者ギルドに行った方が早いんだし」
「……あいて、が、バカ、過ぎた、だけ」
「ハゲドウ」
シュンとしちまったティネッツエちゃんを慰める。イブも言っているが、コイツは獣人王国の冒険者ギルドがバカ過ぎたってだけの話だ。
例え、あの獣人の男がどれだけ強かったとしても、私物化できる様な環境にしたらあかんだろうさね。そんなもん、チンピラ集団と何ら変わりが無くなっちまう。
もしかすれば、あんな反応をするのは人間種だけに対してで、他の種族の者には普通に対応してるかもしれないが、だとしても、たった一人の冒険者の意志を忖度する様な業務方針は健全とは言い難いだろうさね。
街で屋台を冷やかしてる時には、屋台やその辺に居る獣人達から、そう言った視線や態度を受けた事が無いってことを考えれば、あのリーダー格の獣人が、人間種との間で何か揉め事があったのかもしれないが、だとしても、それで冒険者ギルド全体を巻き込んで反人間種的な行動をしてるってのは色々問題だと思うんだが。
その辺の所、ここの国王様は把握してるんかね? 多分だが、このまま放置してると結構な問題が起こると思うんだがなぁ。
まぁ、そんな事、俺達が心配する様な事じゃないんろうがね。
少なくともエクスシーア商会は、ここの国と関わり合うのは控えた方が良いだろうな。




