獣人王国冒険者ギルド
「ギルドには寄らないんですか?」
「うん? 冒険者ギルド?」
「はい」
ティネッツエちゃんにそう言われ、ちょっと考える。何かウリが隣で同じように首を傾げてて、ディスられ気分が少し癒されるわ。
確かに冒険者ギルドなら色々と情報も集まってくるから行くのは構わんのだが……なんか新しい土地の冒険者ギルドに行く度に絡まれてるような気がするんで、全員で行くってのは気が進まんのよね。やるんなら一人でこっそりの方が良いというか……
ただ、周りのメンバーの顔を見ると、全員が全員『行ってみたい』ってな表情で……まぁしゃぁない。多少の厄介事は情報料の内だと思っておくか。
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「オウオウ!! ここはガキの遊びばじゃねぇんだよ!!」
うん、あっさりフラグ回収。最近、ちょっと自分たちの格好がTPOを弁えてないからかなぁとか思わんでもない。
何せ、イブとティネッツエちゃんが辛うじてローブ姿なのと、軽量革鎧を着てるくらいで、俺とラミアーと、ついでにセフィなんかは、ちょっと良い所の坊ちゃん嬢ちゃんの格好だし、その上、美術品ゴーレムと犬を侍らしてる訳だからな。
まぁ、冒険者って風には見えん。
だからと言って、入って来て早々こうやって恫喝しかけてくるのはどうなんじゃろ? 裕福そうなお坊ちゃんって事なら、むしろ依頼者って方がしっくり来る筈なんだが、どうも、その線の視点が抜けてるんだよなぁ。
そもそも俺、冒険者でもあるが貴族でもあるし、本来なら依頼出す側の人間って事になるし。冒険者だけれども。
受付のおばちゃん……おばちゃんだよな? ブルドックみたいな見た目だけど胸もあるし。いや、ワンチャンおっさんかもしれんが……そんな受付の獣人の方を見ると『厄介事に巻き込まないで欲しい』って感じで視線を逸らされる。それで良いのか? 冒険者ギルド。
俺の眼前で凄んでるのは、年齢の読めない獣人の男。荒々しいだけで凄みってもんが足らんから、結構若いんじゃねぇかなぁ。
うーん。ここで実は俺ドラゴンスレイヤーなんだぁとか、D級だけど冒険者なんだぁだとか言ったところで、火に油を注ぐ結果にしか成らん様に思えるな。
うん。ここは観光に来た商人の若様プレイかね。
そう思ってファティマを見る。彼女は黙ったまま頷いてくれた。
『【憤懣】失礼な冒険者ですね? ここの冒険者ギルドでは、依頼人を脅迫するというのが礼儀なのですか?』
一歩前に出たファティマにそう言われ、その獣人冒険者は露骨に後ろにいた別の獣人の方を見た。
目の前の奴がサバトラだとすれば、後ろの奴がサーバルキャットかなってな位には体格が違う。ちなみに大型ネコ科は居ない模様。なる程、コイツがけしかけたって所か。うん、わからん。その目的も何も。そもそも初めて見る奴だし。
「依頼人、ねぇ。お前程の強者が、何を依頼するってんだ?」
ふうん? コイツはそれでも俺達の強さは理解してるんね。って事は、手下をけしかけたのは具体的な強さを見極める為か。
そうなると、それを見極めようとしたのは、単純に人間ってモノが気にくわないから、今ここで敵対する動きをすべきかどうかを考える為って所かね。そこそこだったらここで叩きのめして、結構な強さだったら後で闇討ちとかそんな感じで。
『【同意】あの獣人から向けられる敵意の強さを考えると、その考えが妥当だと思います』
なる程? つまりは、あの獣人は人間に対して、ある種敵愾心を持っている、と。だから、強そうな人間の冒険者が、自分のテリトリーに来ることが許せないって訳やね。今回はその梯子を外されたってぇ形になるが。
「観光案内だが?」
「はぁ?」
俺の言葉に獣人達の目が点になる。いや、ここまで惚けられるとむしろこっちが『なんでやねん!!』って、突っ込みたく成るんだが。
別に荒事だけが冒険者の仕事って訳じゃねぇだろうに。準冒険者なら庭掃除やら引越しの手伝いやらって仕事もあるんだからさ。
『【推論】オーナー、もしかして獣人の国には、準冒険者って制度自体がない可能性もあるデス』
え? マジ!?




