食・住・魔法!
地下の倉庫はヒンヤリとしていて、貯蔵をするのに最適な場所だ。ゴミを漁って手に入れた食料は、なるべく早く食べさせる様にしているが、しかしそれでもあまり長い間置いておくのは拙いだろう。
確かに、無くなればまた取ってくれば良いんだろうが、そんなその日暮らしをしてちゃ、イザって時に困る事に成る。
(せっかく中庭が有るんだから、菜園とか作れれば良いんだけどな)
幸い、家には土堀大好きっ子がいる。土を耕す手は困らないだろう。
とは言え、そこまで悠長な事は言ってられない。
ならばどうするか。
(保存食でも作るか)
そう言う訳で干し野菜を作る事にした。と、言っても、天日干しにするだけだけどな!!
しかし、仔犬達も育ってくると、食料はいくらでも必要となる。そうなればゴミ捨て場巡りだけでは埒が明かないかもしれない。別の食料獲得方法も考えねばな。
俺に出来る事は罠を作っての狩猟くらいだが……
街中を巡って(と言っても、あまり人に見つからない様にだが)見たところ、野良の犬猫の類いは結構見かけた。
だが、それらを狩るのは……ミカなら出来そうだけど、あまりしたくはないな、うん。
そうなると、鳥って事になる。
ふ~む……さて、罠でも作るか。
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「よっしゃ! 掛かったぞぉ!!!!」
教会の屋根に張った網に鳥が三羽掛かっていた。現代日本では禁止されてるやり方だけど、この世界で禁止されているかは分からない。だが、生きる為だ、何か文句が来るまではこのやり方でやらせてもらおう。
ちなみに網は俺の手製だ。糸自体はシーツを解したもの。糸と、何本かの木の枝があれば簡易的な織機が作れる。
それを応用して網を編んだのだ。その内、タオル地なんかも作るか。
それはともかく、取れたのは……何かカラスみたいな鳥だ。うん、名前なんか分からん。
狩の練習代わりにミカと、ついでに付いて来たセアルティとウリに止めをささせる。
セアルティは、本当にミカの真似をしたがるな。新生児模倣と言うやつだろうか? 違うか。
「キャウン、キャウン!」
……ウリ、何やってんの? おそらく、鳥の止めを刺そうとしたんと思うが、網から外す前に突進したせいで網に絡まってしまってる。
落ち込んでるウリを慰めながら、ミカが止めを刺した鳥の羽根を毟っていると彼女が涎を垂らしてすり寄って来た。
う~ん、これは干し肉にしようと思ってたんだが、まぁ良い。
いつも美味しいオッパイを飲ませてくれる礼だ。
「ほれ、たんと食べろよ」
「アン!!」
ブンブンと尻尾を振って鳥を食べている。ぬう、可愛いヤツめ。
抗いがたい欲求に勝てず、ミカをメチャクチャもふもふしていたら、セアルティが「あたしも!」とばかりに飛び付いてきた。
二対一は流石にキツいが、しかし、いぬ好きの根性見せてやらぁ!!
と、思ってワシャワシャしてたら、横から衝撃が!
……ウリ、お前もか……
上等だ!! ワッシャワッシャにしてやんよ!!
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そんな感じで日々を過ごしていた。仔犬達も随分と大きくなって来て、俺が乗っても平気なくらいに育って来ている。若干一匹は何故か俺に圧し掛かって来るが。
この辺は流石に動物の方が成長が早い。
……いや、既に道具作りまでしている俺が言うのもアレだとは思うが、だがまぁ、まだ赤ん坊だからな! 一応な!!
ここ数日で街中も色々と探索が進んだ。俺達が住んでいる教会は、裏通りではあるが、貧民街とは離れてる事もあって、それほど治安は悪くない。
いや、貧民街酷すぎだろ、変に人の手が入ってるせいで、まるでドブに掘っ立て小屋……てか、雨避けがついてるだけってな感じで、あれなら日本の河川敷の住人の方が、マトモに“ヒト”って生活をしてるわ。
ともかく、俺のいる辺りは、それほどチンピラやらゴロツキの出没しない地域らしい。
それと、信心深い人達が多いのか、あまり、教会に不法侵入しようって輩も居ないっぽい。
まぁ、俺達は例外だがな!! 無神論者と獣だもの!
それと、やはりここは日本ではないらしい。
と言うか、地球であるかすら怪しい。
見たところ、文明レベルは産業革命以前の西欧と言った感じ。しかし、確実に現代地球と違っている部分があった。
それは魔法!
そう、魔法だ!!
最初に見たときは、何をしているのか分からなかった。しかし、街の人間が、タクトみたいな物を持って、何かを口ずさむと、そこに火が現れたんだ。
大道芸とか手品とか、そんなチャチなもんじゃねぇ。何せ、屋台のオッサンが当たり前の様にやってやがったんだからな!!
これは、俺も魔法が使えるって事か? 使えちゃうって事か?
オラァ、ワクワクしてきたぞ!!
成る程、魔法なんて物がある世界なら、新生児が歩き回ったっておかしかないか。
納得した。非常に納得した。ディ・モールト(非常に)非常に納得した!
と思っていたら、俺が犬に乗って移動している所に遭遇したおばさんに腰を抜かされたよ。
やっぱり、新生児が動き回っているのは異常らしい。くすん。
ともあれ、魔法の存在を知った日から、俺の活動に魔法訓練が追加された。
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「アールム・フェータ・ベベール・マルクル・ディット・メウア!!」
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むう、何も起きん。
呪文は合っているはず。屋台のおっさん達の言葉を盗み聞きながらメモした布の切れ端を確認するが、聞きかじった呪文と同じ発音だ。
門前の小僧習わぬ経を読むじゃないが、今の俺は、こうして盗み聞きして練習するしか方法がない。何せ、人前に出るとそれだけで驚かれるからな!!
もしかしたら、声の抑揚とかリズムとかが違っているのかもしれないが、それを確認する術は、自分の声を集中して聴く以外にない。
これで、あのタクトみたいなものが必要だったのなら、お笑い草だが、しかし、アレを手に入れるのは至難の業だろう。盗むって訳にも行かないしな。
ともあれ、今自分に出来るのは呪文の練習をする事だけだ。
為せば成ると信じよう。自分の可能性を!!
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ダメでした。
何でじゃ!! 何でなんも起こらんのじゃあ!!
あれからまた暫く時間が経った。
だが、魔法の方は全くと言って良い程進展はなかったわ!!
俺とて努力を怠った訳じゃない。
その証拠に、今まで、意味のわからん音の羅列だった、この世界の言葉も、薄らボンヤリとだが、理解できる様に成ってきたし。
それだけ集中して話を聞いてたかって事だ。
にも関わらず、魔法は使えない。
やっぱ、あのタクトか? タクトが必要なんか?
だとしたら、どうすっかね? 盗むって訳にはいかないし。
う~ん。どうしよう……