お家に帰りたいんですわ
「あれ? 最後まで見ていかないの?」
「残ってどうなるよ」
クロニクル帝の言葉に、俺はにべもなく返した。
竜種だけ倒して他の戦争に参加しなかった俺達は、他の冒険者から見れば、肝心な時に居なかった臆病者って扱いになるのは目に見えてるじゃんね。
そうなれば、全部終わった後、集まってた他の冒険者に、悪い意味で絡まれるって言う未来しか見えんのよ。
そんな状態で、長居する気になんて成れるわきゃない。当たり前だけど。
「そもそもの話、元々は竜種の事は秘密にする予定だった筈だろう? なら、俺達がいつまでも居座ってるってのも可笑しな話じゃね?」
「そうなんだけどねぇ帝都が半壊してる時点で、既に秘密にできない状態だからね」
どうしようか? そんな思考が駄々洩れだが?
この状態でドラゴンスレイヤーさんの名前なんか出して『実は彼が倒してくれたんです~』って言って、例え説得力があったとしても、現状知られてるドラゴンスレイヤーさん、他国のS級冒険者だったりD級冒険者な上に貴族として有名な奴等ばっかりじゃんか。
「いや、裏工作して秘密裏に力を借りてたのに、ここで公表しちまったら、それが表立っての事に成っちまうんじゃねぇの?」
表立って借り作るのと秘密裏に借りを作るのとでは、政治的な意味で全く違う訳だから。
「確かにそうなんだけど、ここまで派手になっちゃうと、変に隠す方が問題になるからねぇ」
「ならいっそ、魔導騎士団の功績にしちまえばよいんじゃないか?」
「……君達はそれで良いの」
正直、これ以上の功績やら名声って必要ねぇんよね。
『【納得】マスターがそれで良いのなら』
『【不満】えー。もっとオーナーは名声と称賛を浴びても良いと思うのデス』
いや、だから、これ以上は必要ないんだってばよ!!
「ん、トール、様の、思い、通り、やれば、良い」
「何でもよいよ~」
「ふえ! わたしはどっちでも……」
『ど~でもよいよ~』
それに、魔導騎士団の面子って面もある。
確かに“魔族”ってのは慮外の強さを誇る化け物な訳だけど、それでも傍から見れば、人間サイズの人型な訳だ。それを魔導騎士団全員で相手して、その上逃げられましたってのは、外聞が悪かろうに。
その上で帝都も半壊してます。でも、それやった巨大生物倒したのは、D級冒険者でしたとか、ドラゴンスレイヤーだけど他国の貴族ですとかって、魔導騎士団面目丸つぶれの上、立つ瀬もねぇ訳じゃん?
だったら、竜種討伐を魔導騎士団の手柄にしちまった方が良くね? って話。
そもそも俺も、これ以上の手柄って必要ないからね? それなりに報酬は頂くけど。
それよりも、まだベリアル軍団が丸っと残ってる状態で、既に勝っている前提の話をしてるクロニクル帝の自信の方が、凄いよね? 取らぬ狸のなんとやらって諺があるけど、何それって感じで、自分たちが負ける事なんて全く考えてないって辺り。
勝てないであろう相手には、冷静に俺をぶつけるって所を考えれば、戦術眼的には確かなんだがろうけど、その皇帝さんが勝てるとふんでるって事は、確実に勝てるんだろうけどもさ。
「って、事で帰るわ」
そんな俺の言葉に、クロニクル帝は、苦笑しつつ「分かったよ」と言った。




