俺達の戦いはこれまでだ!!
その一撃で腰部から腹部を喪失したムシュフシュは、しかしそれでも暴れ、むしろ最後の足搔きとばかりに、強引にセフィの拘束を引き千切ると、俺と正対し、その長い首をユラリと揺らした。
「トール、様!!」
「とーる!!」
『【悲壮】オーナー!!』
「アオン!!」
「ワンワン!!」
「ワン!!」
そのムシュフシュを前に、微動だにしない俺を見た皆から、悲痛な叫び声が上がる。
俺が大技を使った後は、必ずと言って良い程、気を失っているのを知っているからだ。
既に体の上下が別れ、上半身だけに成って居るにも関わらず、ムシュフシュは、遥か上部から俺を見下ろして居る。
『【焦燥】個体名【セフィ】!!』
『だいじょうぶ、だよぉ』
グラリと揺れたムシュフシュは……
ドッズウウウゥゥゥゥン………
そこまでで力尽き、俺のすぐ横へと頭部を落下させた。
だが、ムシュフシュが、その最期に瞬間に、どんな視線で俺を見ていたのか何て事は、やはり、黒鎧の内部で、両眼から流血し、何も見えていなかった自分には分る筈もなかったのだが。
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その後、ぶっ倒れて気絶した俺が、再び意識を取り戻したのは、ムシュフシュを倒してから4時間ほど経った後だった。
「トール、様、は、また、無茶、して!!」
「とーる、死んじゃ、駄目……」
「ふぅ! うえ! うえぇぇぇ!!」
で、また、泣かれて居る訳なんですけどもね。
今回は即座に気を失わずに、残心まで出来てるんだが、そんな事、彼女達には関係無いらしく、うん、まあ、ゴメンナサイ。
昔は丸々一日気を失っていたのに、オファニムの増幅があったとしても六分の一に成ってるんだし……いや、本当にゴメンナサイ。
ムシュフシュを倒したとはいえ、戦争って意味じゃ、まだ何も終わっちゃいない。ただ、少なくとも、あの引きこもり皇帝的には、俺たちの出番はここまでにして於いて欲しい筈なんだ。
いろいろ工作はしてたとしても、他国の人間が幅を利かす様な事は好ましくないだろうしな。
個人的にはベリアル軍団に家畜同然の扱いを受けてる人達の事が引っかかるが、じゃぁ、助け出したとしてどうするかってぇ話になる。
……いや、連れて行っちまうか? どうせだし、家の領に。
「なんか不穏当なこと考えてる顔してるなぁ」
なん、だとっ……
引きこもりが外に出て来てやがるっ!!
俺の考えを読んだらしい引きこもり皇帝こと、魔導帝国皇帝クロニクルが、魔導騎士団を伴ってやって来た。
クロニクル帝は疲労の浮かんだ表情をしてるし、騎士団の団員が結構なボロボロさ加減になっていることを考えると、おそらくはベリアルと一戦交えたって所か。
その上で浮かない顔をしてるって事は……
「逃げられたか」
「ご名答」
俺の言葉に、ため息交じりにクロニクル帝はそう答えた。
完全に逃げ去ったのか、それとも軍団と合流するだけなのか、どちらにしろ、クロニクル帝の心労はまだまだ解消されないっぽいわ。
まぁ、それに関しちゃ、俺に言うべき言葉なんざないんで、『がんばれ』と思っておく。心の中だけで。
と、クロニクル帝が、ムシュフシュの亡骸を見上げ、溜め息を吐いた。
「自分で頼んどいてあれだけど、倒したんだね」
「倒したよ。頼まれたし」
今回は事前にセフィから話も聞けてたし、それなりに対策を立てられた事もあって、安定した戦いだったわ。それでもギリギリではあったけど。
まさか電磁バリアを使ってくるなんて思わなかったし。
セフィの話で障壁を使ってくるとは聞いてたが、魔法障壁の様なものだと思ってたからなぁ。よもやの電磁バリアと言う。
「ありがとう、ここからは自分達で何とかする」
「……問題があったら、連絡をくれ」
やんわりと『これ以上は余計な事すんなや』って、釘を刺された。まぁ、自分達で何とかするってんだから、何とかして貰おう。
あまり、自分達に出しゃばって欲しくなさそうだしね。




