全てを決めるべき一撃
まず初めに限界が来たのは、ティネッツエちゃんだった。【恐怖】にエナジードレインにと、いろいろ耐えてくれてた訳だ。もっとも、コボルトって種族は、元々精神干渉ができる種なので、ティネッツエちゃんも、そっちの耐性は有った様だけどさ。それでも、この中で一番幼い彼女がここまで頑張ってくれたってだけでも十分だとは思うんだわ。
「ミカ!!」
「あお~~~~ん!!」
俺が叫ぶと、彼女は器用にティネッツエちゃんを自らの背に乗せる。が、退避を開始しする前に、一度俺の方へと近づいて来ようとする。
? 何だ? その事に何かを感じた俺は、カウンターを入れつつもムシュフシュの隙をついて、一旦離脱した。
「トール様……」
息も絶え絶えになっているティネッツエちゃんが、何かを伝えようと俺を呼ぶ。ミカが近付いて来たのはその所為か。
「トール様の言ってた通り……」
「うん、そうか、有り難う。休んでくれ」
ティネッツエちゃんの報告に思わずニヤリと笑みが溢れる。俺のその表情を見て、彼女もニコリと微笑んだ。
俺に情報を伝えた事で安心したのか、気を失ったティネッツエちゃんを連れて、ミカが離脱をする。これで、周囲も気にしながら攻撃を続けなくちゃいけなくなったが、今聞いた情報は値千金の価値があるわ。
今までと同じ様なパターンで攻撃し続けるのも、この辺が限界だったからな。最も安全に相手を削れる方法だったんだが、そろそろリスクを取らんといけんし、その価値はある。
ティネッツエちゃんがくれた情報。有効に活用して見せるさね。
「イブ! ジャンヌ!、ラミアー! ちょっとばっかし耐えてくれ!!」
「ん!」
『【了承】任せてデス!!』
「おけ!」
俺の言葉に、三人が応え、攻撃を一撃の強さ重視から、弾幕を張る様な状態に切り替える。手数を増やして、ヘイトを自分たちの方へと向ける為だな。まぁ、目くらましの意味も兼ねてだが。
「バラキ! ウリ! ラファ! 三人の護衛を頼む!!」
「オン!!」
「アオン!!」
「ワン!!」
それぞれが一吠えすると、三人を守る様にその前へと飛び出る。遠距離専門の三人に、近距離専門の三頭をつけた。こいつらなら、何が何でも三人を守ってくれるだろうよ。
『あたしはぁ?』
「現状維持」
『なんか、あたしだけ、あつかいちがくない?』
ソンナコトナイヨ? だっておまい最強の竜種の一角じゃん? HAHAHAHAHA!! 只人の俺が心配する事すら烏滸がましいでござんしょ? とかって言ってる場合じゃねぇ。集中!!
俺の攻撃も、勿論今まで届いてはない訳だが、だが、全く効果がみられていないって訳じゃねぇ。いや、むしろ他の奴等よりはノックバックしてる距離自体は大きいんだ。
要は、ムシュフシュのバリアが、俺の攻撃より僅かに優れてるって事な訳だな。逆に言えば、その僅かな差さえ潰せれば、俺の攻撃は届くって事だ。
だからこそ、ムシュフシュの周囲に回り込みながら、体のあちこちを攻撃しまくり、そしてそれをティネッツエちゃんに感知してもらって居たんだわ。
ムシュフシュのバリア能力の起点がどこにあるのか? そしてそれがどんな形で作用しているのかって事をな。
磁石の事を思い浮かべてもらうと簡単だ。アレの磁界はSNの両極を繋ぐ様に発生し形成されている。【オド】ってのは生体磁場の事で、それを使ってバリアを形成してるってんなら、その起点が必ずある筈なんだ。
そして、その起点をティネッツエちゃんは観測してくれた。
『トール様、なんか大きな力の部分は2ヶ所、頭部と胸部です』
どうやら、その2ヶ所が起点で、同心円状にバリアが形成されているらしい。恐らく起点となっているのは脳と心臓なんだろうな。生物として最も活性化している部分。だとすればそこから遠ければ遠いほどバリアの威力は低くなる。だが、尻尾ではだめだって事は確認済みだ。
攻撃として使っているだけあって、その部分の装甲は、他よりも固い。
そうなると、狙うべきは1ヶ所しかない。そして、一撃で潰せなければならない事を考えれば、生半可な攻撃じゃ駄目だろう。それこそ、邪竜を叩き潰した時並みの力が必要だ。
何せ、常に【オド】を吸収してるって事は、常に回復してるって事でもあるんだからな。
俺が攻撃をやめたって事もあり、その攻撃目標が3人に移る。だが、そこは頼もしいボディーガードが守っている。そっちは心配せずに、自分の方に集中だ。
自身のプラーナを活性化しつつ、それを濃く濃く濃く濃く濃縮して行き、濃縮しつつもそれを速く速く速く速く加速させる。
ドロドロとしたマグマを強引に加速させるように濃く、速く、濃く、速く。
そうやってプラーナを活性化させて行くと、俺と接続されているオファニムとケルブのスリットから漏れ出る赤光も、強く激しく明滅して行く。
まだだ。もっと、もっと、もっと、もっと!!
体中のプラーナを活性化させ、それを強引に加速させ続ける。ギリギリと頭が痛み、全身が心臓にでもなったかの様に脈動している。視界が赤に染まり、そして視野が収束して行き、ソレ以外の物が消え去る。ドクンドクンと耳鳴りのように聞こえていた音がザーザーというノイズへと変わって行き、その音だけしか聞こえなく成る程に響き、だが、逆に聞こえなくなる。目から、耳から、何かが流れ出ている感覚があるが、やがてそれも消え去る。見えず、聞こえず。だが、問題ない。視えて、聴こえている。眼前の、ムシュフシュと言う竜種の、その姿も、脈動する鼓動も。
宙を蹴り、ムシュフシュに肉薄する。
その俺の動きに気が付いた様に、ムシュフシュは尻尾を振るう。が、問題ない。視えている。
『やらせないよぉ!』
セフィが植物を操り、尻尾を絡め捕る。
大地についた四つの脚から、その威力を膝、大腿、腰、腹、胸、腕へと余す事なく伝え、それを手首から手へ。
「ファティマアアアアアァァァァァァァ!!!!!!」
『【了解】サー!! イエス!! サー!!』
そして、その威力のすべてを乗せた一撃をムシュフシュの腰部へと、叩きつけた。




