先ずは一当て
「オファニム!! ケルブ!! ファティマアアアアァァァァ!!」
『【了解】サー!! イエス!! サー!!』
暴れまくってる巨大怪獣に対し、俺は【全能力発動】して飛び掛かった。
見た所、避難は完了してて、これ以上の人的被害は出なさそうではあるが、住んでいた所が壊滅するってのは、結構、心にくるんよ。
前世では震災も経験している。住む家が潰れるってのが、今まで普通にできてた事が出来なくなるってのが、どれ程キッツい事なのかは、俺にも分かる。
だから、これ以上はやらせない。この光景で心が潰れそうになる人達の事を考えれば、それによって薄ら笑う輩が居る事を考えれば、これ以上はやらせちゃぁいけない。
全ての推進力を背部に回し、一直線でムシュフシュを目指す。風がまとわりつき、鈍った動きをプラーナの活性で強引に動かし、聖斧を振りかぶる。
「どっっっっ、せえええええぇぇぇぇぇいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
俺の一撃で、ムシュフシュの巨体がよろける。だが、俺は、舌打ちを一つ鳴らした。
「……当たって、ねぇ」
よろけさせる事自体はできたが、当たる直前で弾かれたっちゅうか、お互いに弾き飛ばされたってぇ感覚。
最後に感じたあの妙に高くなった抵抗感。まるで磁石の同じ極同士を近付けた時の様なそれ。
『【困惑】マスター』
ああ、多分、間違いない。
「ありゃ、電磁場だ」
おいおい、コイツ、磁場が扱えるって事か? いや、確かに【オド】を感じ取れ、喰らえるなら、扱うって事も出来なくはないだろうが……
いや、魔族の中にもベルゼブブが居たじゃねぇか。だったらムシュフシュに扱えないって事にはならねぇか。何せ、種族としちゃ、魔族の方が近しいんだからな。てか、あの一撃でクリーンヒットできてないってのは、ちょっと厄介か?
吹き飛ばされた方向にプラーナを放出し、減速する。だが、立ち直ったのはムシュフシュの方が一歩早かった。くそ! 攻撃した側と迎え撃った側での衝撃の度合いがモロ出ちまってるじゃねぇか!
「ん! 【詠唱破棄】【エクスプロージョン】!!」
『【攻撃】【詠唱破棄】魔法名【エクスプロージョン】デス!!』
俺への攻撃を迎え撃つべく、イブとジャンヌが魔法を放つが、しかしそれも、ムシュフシュには届かなかった。だが、その威力を完全に消す事はできずに、頭部が仰け反る。
その隙に、減速をやめ、間合いを取る。
「トール様!! 周囲には誰も居ません!!」
短波で周囲を探索していたティネッツエちゃんがそう叫んだ。って、誰も居ない?
ティネッツエちゃんがそういうって事は、つまりムシュフシュの周辺には、魔導帝国の人間どころか指示している者の姿もないって事になる。
これは、どういう事だ? 完全に制御できているなら、近くで指示を飛ばしてる方が確実なんじゃないのか? それとも、テイムは出来てても完全に制御できてる訳じゃないって事なのか? もしくは単純に【オド】吸収はパッシブなんで、自身も危ないから離れてるって事なのか?
この、チリチリとした感覚は、ムシュフシュの【恐怖】の影響だと思うが、そのせいでベリアルの気配を感じ取ることができなくなっている。
皇帝に対する復讐がこの行動の根幹だとすれば、特等席で見てそうなもんなんだかな。そうなるとベリアルの姿がここにないって事が逆に気になるが……
いや、ここはムシュフシュの相手だけを考えよう。そもそも俺達の仕事はコレなんだからな。




