な、なんだってー!
エリスの話を纏めると、つまりはこう言う事だった。
「今、魔人族の国は狙われているんだよ!!」
「な、なんだってー!」
事の始まりは、エリスんとこの王様、エリスパパが側妃を迎入れた所から始まるらしい。
エリス自身は、その女の事自体気に入らなかったらしいんだが、その側妃が入城した日から、城内の雰囲気が一変したんだそうな。
「何か、皆がギスギスピリピリして、些細な事での言い争いが増えたのじゃ」
そんな中でもエリスパパは側妃にでれっでれの甘っ々で、結構な無茶な望みですら最優先で叶えてやり、その上、側妃を耽溺する毎日で、公務は滞り、国内での問題が山積みに成っていったらしい。
で、エリスパパがそんな状態だから、王弟一派が、「王に国の舵を取る資格無し」と立ち上がり、内戦待ったなしの状態になっているそうだ。
そこに周辺諸国もエリスパパの国を蚕食せんとの思惑で王弟に支援したり、逆にエリスパパに支援したりでしっちゃかめっちゃかに成っているらしい。
で、まぁ、その側妃なんだけど、要は魔族の尖兵で、内戦を皮切りに、魔人族の国と周辺諸国との戦争を起こして、邪神への血の供物を奉げるのが目的なんだとか。九尾の狐かな?
「ワシは、その事を父上に訴えたのじゃが、逆に『側妃に危害を加えようとした』と……」
「で、修道院送りにされたと」
「うぬ」
悪役令嬢かな?
ともかく、エリスは修道院に送られる最中にバフォメットに襲撃されるも、辛うじて逃げ延びたのだそうな。十中八九、その側妃の……いや、魔族側の陰謀だよな。
「ヤツ等は、ワシを父上の亡くなった後の神輿として、内戦を長引かせようとして居るのじゃ」
亡くなった父の仇を討つためにってのはある意味美談になるし、武力で国を簒奪せんとした王弟に天誅を~、何てのは良い大義名分だろう。
こう言いだす輩って同じ武力で対抗してるじゃんってのは気にならないのかね。
そして既に神輿を担ぎだす事が決定してるって事は、つまりエリスパパが戦死もしくは暗殺されるのは既定路線……と。
「よく、がんばったな」
「うぬ? ……うむ……うむ……」
そう言って俯いてしまったエリスの頭を撫でる。魔族の陰謀に気が付いてから、どれだけ必死だったのだろう。
父親は半ば魔族に洗脳された状態で、叔父は父に敵対し武装蜂起。
味方は少数で、その上彼女は旗頭だ。多分、少ない味方にすら、いや、味方だからこそ弱音など吐けなかっだろう。
多少不遜なのは、王女と言う立場だからだろうか?
それでも、こんな少女の小さな肩に、どれ程の重圧がかかっていたのか。
みれば、嗚咽を噛み殺しながら、涙をポロポロと零している。
「大丈夫だ」
「うぬ?」
「お前だって、まだ間に合うと思ったから、こんなとこまで来たんだろ?」
「うむ」
俺がそう言うと、少し目の端に残っていた涙を拭いて、エリスが二カッと笑った。
国内に国王派、王弟派とは別にエリスの親派も居るにはいるが、旗頭だったエリスがこの現状、旗色の方はすこぶる悪いのは確かで、その少ない味方の一部も、今回の襲撃で散り散りに成ってしまったらしい。
さて、そもそもエリスが公爵領まで来た理由は、“伝説の聖斧”を求めての事だと言う。
「うぬ、魔族には普通の武器では傷すらつけられぬ。しかし、宝物庫にあった『聖剣』『聖槍』『聖弓』はすでに奴等に押さえられてしまったのじゃ。なので、後は失われた『聖斧』しか、奴等に対抗する手段がないのじゃ」
……そうかぁ、普通の武器じゃ、傷すらつけられないのかぁ……腕を吹き飛ばしましたが? 俺。
まぁ、あの攻撃以外は全く通用しなかったけどさ。
で、その聖斧とやらが、この公爵領の何処か。正確に言えば、この森のどこかにあるらしい。
どうでも良いが“政府”と“聖斧”……国政を掛けたダジャレかな? いや、日本語読みでの偶然の一致だから、この世界じゃ言葉が違うから意味はない話だけどさ。俺の魂に刻まれてる『オヤジギャグ回路』ががががが……
それはともかく。
「失われたのに、場所は分かるのか?」
「うむ、伝説の邪竜を退治した時に、邪竜と共に奈落に落ちたそうじゃ。そして、その邪竜と戦った場所そのものは伝わっておるのじゃ」
他の聖武器が残ってるから一つぐらい無くても良いかって事で捨て置かれた斧さん不憫。
と言うか、何気に不法入国してやがるのなエリス。
ちなみに、件の邪竜云々の言い伝え自体、数百年前の話で、この辺り一帯がまだどの国の物とも定まって無かった時代の話らしいからな。
ともかく、バフォメットに通用した俺の技も、魔力をフルで使ってようやっとと言った状態だし、もう一度再現しろと言われてもすぐに出来るかどうかわからない代物なんで、対抗手段は多いに越した事は無い。
なので、その聖斧とやらを探す事に否は無いんだがね。
「それは、個人でどうにかする様な事なのか?」
「うぬ、先程も言った通り、周辺諸国は、我が国を蚕食しようと言う思惑しかないしの、今はワシの味方と成っておる辺境伯の手勢が何とか抑えている様じゃが、結局の所、魔族を何とかせねば、進展しようが無いのじゃ」
周辺諸国の思惑がそうであるなら、つまりはこの国もその辺の事情は分かって居て、あわよくば領地をかすめ取ろうとして居るって事か。
なら、下手に他の国に助けを要請するって訳にも行かないって事だな。
バフォメットの事だけなら、公爵軍を巻き込めばいいとか思うんだが、そうなると、安易に公爵家は巻き込めない。下手すりゃ内政干渉で、こっちも攻撃の対象に成っちまう。
それに、普通の武器じゃダメージが無いって事なら、変に冒険者を巻き込むのも無駄に被害を大きくするだけって事に成るから、それも悪手……と。
成程、そうなると個人で動かざるを得ないって事か、参ったな。
そうなると、余計に、その聖斧が必要って事に成るのか。オッケー、状況は理解できた。
「なら、その聖斧ってやつを為る早で探さねぇとな」
「うぬ」
******
エリスを見付けた場所は随分と森の奥だとは思っていたが、この森自体、周辺はともかく奥の方は緩衝地帯も兼ねていて“どこの国の土地でも無い”場所らしい。
伝説に成っている邪竜もそうだが、森の奥に行くに従って魔物の数は増えるし、その凶悪さも上がって行って開墾が困難に成るからだな。
「おい、オヌシ」
せっかく労力と資金をつぎ込んでも、まぁ数年に一回くらいの災害で開墾した土地に被害があるって位なら、備蓄で保証しようって思えるだろうが、数週間、下手すりゃ数日おきに天災級の被害が来るってなれば、無理を通して開発を進めようって気も無くなるのは当たり前だ。
「の、のう……」
それにしても、そんな危険な場所にまで足を延ばしているウリには、もう一回キッチリとOHANASHIをしないとな。
「ちょ、オヌシ!!」
「あ?」
「何なんじゃ!! オヌシは!!」
飛んできた30cmくらいのカナブンを叩き潰しながら、何か喚いてるエリスの方を見る。全く、この虫の多さは嫌になる。周囲では、ミカやバラキ達も連携しながら俺と同じ様に虫を叩き潰している。まぁウリだけは単独だけどさ。
……やっぱり、身体能力向上を使ってるっぽいなウリ。この戦闘民族が!!
しっかし、この森の中の虫はタフで厄介だ。
首を切ったり脚を吹っ飛ばしたくらいじゃ動きやがるから、キッチリと潰さないといけなくて面倒なんだよな。
そうすると、素材も取れないし潰し損になるんで、労力的に無駄になるから精神的にも疲労がたまる。
これが30cmなんて中途半端な大きさじゃなくて人間サイズとかだったら、三分割とかでも素材は取れるんだがなぁ。
「何故そのように無造作に妖虫種を叩き潰せるのじゃ!!」
「……って言っても、たかが虫だろ?」
「そんな訳有るか!! 熟練の冒険者でも、下手すりゃ死んでしまう事が有る相手なのじゃぞ!!」
HAHAHA!! いや、この程度の虫なら、ウチの犬達でも倒せるぞ? 熟練の冒険者だったら、鼻歌交じりでハエ叩きで潰せるに決まってるだろう。何を言ってるんだろうなぁエリス太くんは。
「ま、心配するな。何があってもお前の事は守ってやるからさ」
「へ? う、うむ」
俺がそう言うと、エリスはそのまま俯いてしまった。
いや、森の中で俯いたら危ないからな?




