ベリアル軍団
「ふうん? アレがそうか」
「アンアン!!」
俺の呟きにミカが応えてくれる。まぁ、魔物の群れな訳だから、間違いはないだろうさ。取り敢えず、手に頭を押し付けてくるミカはワシャっておくが。
ベリアル軍団の行進を見下ろせる高台から、俺達は、その様子を窺って居る。
何と言うか、魔物が隊列組んで整然と動いてるってのは違和感しかないわ。それも。人間を家畜か何かのように扱いながらの行軍。
向こうにしてみれば輜重部隊ってぇ所か? 胸糞悪い。
だが、ベリアルがアレ等を全てテイムして動かしてるってのなら、成程、相当な力の持ち主だって分かるわ。そこはやっぱり魔族ってぇ事なんだろうな。
「ムシュフシュ、居ない?」
「アオン?」
「だよなぁ」
イブとバラキの疑問に肯定で返す。セフィの話によれば、ムシュフシュは、死ぬまで育つってぇ恐竜の特徴宜しく、かなりの巨体を有しているらしい。
だが、現在行軍中のベリアル軍にそれらしい姿は見当たらないんよね。
軍団としてみれば、80の軍団それぞれに100人規模での魔物を有してる。全体数で言えば少ないと感じるかもしれんが、8000もの魔物の群れだと考えればどれだけ恐ろしい規模かってのは分かると思う。
俺の知る最弱の魔物であるゴブリンだって、人と一対一だったら、普通はゴブリンの方が強いんだからな? 言っておくが、単体でゴブリンの群れを襲える俺の家族の方が規格外なんだからね!!
ゴブリンでさえそんな感じなんだから、オークやオーガなんて、一騎当千とまでは行かんが、通常一匹を倒す為には複数の人間が必要になる。オーク位なら6人パーティー1組で対応できそうだが、オーガなんざ複数パーティーが必要だ。
あれ、初見で俺とミカ達が勝てたのは、酷く運が良かったからに過ぎんのだよなぁ。今更だけど。
「セフィ、ムシュフシュが隠れてるとかって事はないのか?」
『う~ん。たんじゅんにいないだけっぽいよ?』
「うん?」
生き物の生命波動の様な物を感じられるらしいセフィに尋ねてみるが、隠れているとかって事ではないらしい。
引きこもり皇帝の話だと、見かけた輩が居るって事だったんだがな。この行軍には連れてきてないって事か?
「あ! ああ!! そういう事か!!」
「ぬ?」
「アン?」
「アオン?」
「ワオン?」
「ワンワン?」
『【疑問】どうしました? マスター』
『【質問】どうしたデス?』
「うん?」
「ふえ?」
『どしたの?』
そうだった、邪竜もそうだったけど、多分、ムシュフシュも【オド】を大量に食らうんだろう。だとしたら、軍団内に魔族の居るベリアル軍に随行なんぞさせられる訳ないじゃねぇか!!
邪竜とムシュフシュは同じ【変異種】で、つまりは魔族と同じ様な【半精神体】だとすればその条件的にも身体の維持に【オド】が必要となる。
ニーズヘッグはそもそも【異次元生物】だし、恐らくミッスルトーの様な物からエネルギーを摂取していたし、セフィの体の維持に必要なのは、【適応者】の【プラーナ】だ。
同じ“竜種”だったとしても、同一条件では考えてはいけなかったんだわ。
そもそも“竜種”ってカテゴライズ自体が、『人類に対しての脅威度の指針』でしかないんだから、同じ“種族”って訳じゃぁない。
むしろ別物。ムシュフシュの体がセフィの言う通りの巨体なら、その維持の為の【オド】の量はどれほど掛かるか。
だとすれば、同じように【オド】の必要な魔族との同時運用なんざ出来るハズは無かったんだ!!
「……あの中にベリアルはいると思うか?」
『【理解】成程、そういう事ですか』
「どゆこと?」
「ん?」
「ふえ?」
俺の言葉に、皆が首をかしげる中、即座にファティマが理解を示す。
『【思案】つまりオーナーは、ベリアルが別行動していると思うのデス?』
『あ~、ありえるよね』
そう言われれば、という感じでジャンヌとセフィも頷いた。
軍団の長が単独行動をしてるってのは、人間だったら違和感しかないが、ベリアルは魔族だ。むしろ一緒に動いてるって方が違和感があるって話なんだわ。
だって、魔族って超個人主義だぜ? カリスマに魅了され動いてるってんならともかく、個人の判断で動いてる限り、『トゥギャザーしようぜ?』なんてこたぁ有り得んのだわ。
むしろこの軍団を囮にして、自分の欲望を満たそうとしてるって方がしっくりくる。
だとすると、どう動いてる? 魔族って連中がどう動いていれば納得できる?
「……帝都に向かおう」
少し考え、俺は、そう結論を出した。




