対策するよ
まぁ、言いたいことは分かる。竜種ってのは、それだけ脅威になるからな。少なくとも俺達だって、力を合わせて死力を振り絞って何とか倒してるわけだからなセフィ以外。
そもそもセフィとは敵対はしてなかったし、ただちょっと分からせはしたが。
取り敢えず、引きこもり皇帝の知ってる情報は全て吐かせた訳だけど、敵の竜種の名前が『ムシュフシュ』……らしい。メソポタミアか何処かかな? 確か“恐るべき蛇”だったか“恐ろしい蛇”だったかって意味の怪物だったと思ったが。
首の長い竜種だって話だが、邪竜みたいに、そう見えるってタイプか、本当に長いのか。
ただなぁ。前世で首が長い動物って、キリンくらいしか思い浮かばんのよね。実際に見てみんと、何とも言えんがな。
『ムシュフシュだったら、たしか、ブラキオサウルスのへんいしゅだよぉ』
「え? ここにきて恐竜!?」
ベリアルん所の竜種を倒さんといかんくなったって、話を皆にしたら、セフィがそんな情報をくれた。そう言や、コイツこれでも太古の昔から生きてる竜樹の分け御霊じゃんかね。
ここで言う変異種ってのは、DNA的なそれじゃなくて、【邪神】に変異させられた種類の事。まぁ、魔族の動物版みたいな物やね。あの【邪竜】も、甲虫の変異種だったらしいしな。同じような存在の割には天敵めいた相手でもあるというね。
その辺は、理性で制御できる魔族と、本能だけのソレとの違いというかなぁ。
兎も角、セフィが対象の事を知ってるって言うなら、その知識、有効に活用させて貰おう。
敵を知り、己を知らば、百戦殆うからずと言うしな。
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『【報告】ベリアルの軍団は魔導帝国東部から中央に向かって進行しているそうです』
ムシュフシュの対策を立てつつ、ベリアルの動向をうかがう。それについては魔導帝国の方から情報を引き出してる訳だが、その為に、引きこもり皇帝の方にはジャンヌに出向して貰ってる。
それについちゃ、俺達がムシュフシュに勝てても、魔導帝国が負けっちまえば色々とご破算なんで、アドバイザー兼って感じで。
魔導帝国、魔導とか付くだけあって、魔法と錬金術を融合させた技術を得意としている訳やね。その両方に強い人材って言ったら、ジャンヌ以上の適役なんざ居るはずもねぇんだわ。
まぁ、俺たちの相手が竜種だけってのは決定事項らしい。あんまり他国の人間が活躍しすぎるのも問題なんだそうな。まぁ、理由は分かる。国家間のバランスってヤツだ。貸し借りの大きさ的なアレ。
『(ベリアルを)倒してしまっても構わんのだろう?』って言ったら、引きこもり皇帝に、ガチトーンで『やめてくれ』って言われたわ。
ただ、皇帝の所に入ってくる情報も、あまり明るいそれがないっぽい。
連中の目的が国家侵略とかそう言った事じゃなく、人間の恐怖をあおるって事自体が目的らしいんで、その進行した後はヒドイもんなんだとか。
暴虐の限りを尽くし、焼かれ、打ち壊され、人々は連れ去られて奴隷とされる。まさにこの世に顕現した地獄といった感じだと報告が入ってるらしい。
何とか逃げ延びた人々が、その事を近隣に伝える事で、人々の不安をあおり、恐怖が伝播してゆく。聞けば重軽傷者は多いが死人が不自然なほど少ない。
つまりはそうやって生き残りを多くする事で、“恐怖”の【オド】を喰らってるって事なんだろうな。
正直、軍団の位置そのものは分かってるんだから、人々を避難させて、恐怖の【オド】を喰らわれない様にすりゃ良いのにと思わんでもないが、話はそう簡単なもんでもないし、避難させた所で、恐怖や不安ってモノが、まるで無くなるってもんでもないからなぁ。
『なるべく早く、決行してくれ』ってのは皇帝に言われた。魔導帝国の方も、準備出来次第軍を動かすらしいんで、それ以前にはムシュフシュを倒して於かなけりゃいけない訳だ。
って、言っても、こっちだって被害出したくないんよ。急ぐのは分かるが、対策を練る時間は欲しい所だ。




