秘密指令をクリアせよ
ギルドマスター室のソファーで、俺はいつも以上にギッチギチに成っている訳で。
「幼女まみれだな」
何その表現。いや、否定できないのが悔しい所なんだけんどもよ。あと、イブさん、最近色々と育って来てるから、幼女と言うよりか少女なんだからね!!
今、俺の左右にはイブとティネッツエちゃんがしがみ付き、頭に顎を乗せるラミアーと、膝上で俺にしがみ付く様にしているセフィ。そして足元にはミカとバラキ、ラファが侍っている。いや、ラファに関してはイブの脚元なんだが。そんな俺を守るかの様に、左右の脇を固めるのがファティマとジャンヌと言うね、いやちょっと、俺、出されたお茶すら飲めん状態なんじゃが!?
ウリだけが唯一部屋の隅で大欠伸をかいてるんだが、何とかしてくれませんかね? 犬達だけでも……ダメですか、そうですか。
「てか、無関係な顔してるが、コレ、アンタの所為なんだが?」
「はて、そうだったかな?」
俺がいつも以上に纏わりつかれてる理由は、直前のギルマスの行動の所為だったりする。具体的には“顎クイ”からの“頬ズリ”と“耳元囁き”と言う大人の女性3連コンボの所為でイブ達が色々と勘違いしちまったって事なんだわ。
まぁ、“顎クイ”と“頬ズリ”はこの女の悪ふざけで、本命は“耳元囁き”ってか耳打ちだったんだがね。
『皇帝が秘密裏に会いたいと言ってるんだ』
態々、周りのヤツラに聞こえない様に言ってるって事は、俺と二人っきりでって事だろうと思うんだが、さてさて、どうしたもんかね?
もっとも、オレが聞いた時点でファティマとジャンヌ。それとラミアーには筒抜けに成ってる可能性が高いんだが。あぁ、セフィもか、って、半分にはバレてるんじゃが!? 俺のプライベート何処行った!! まぁ、隠さんきゃいけん事とかないんだがね。
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大体皆が眠りについた事を確認し、俺は起き上がる。俺の動きに気が付いたミカとバラキが足元に頭を擦り寄せたのを軽く撫でる。
「行くの?」
「ラミアー……」
身体を捻る様にして上半身を起こしたラミアーが、俺を見ながらそう言う。その双眸は潤み、が俺が立ち去る事を悲しんでいる様に見える。んだけんどもよぉ。
「どこでそう言うの覚えて来たんだか分からんが、変な雰囲気を作るなや」
ラミアーがここで寝てるのは、いつもの通りの雑魚寝だからだ。この間の旅の間、基本的に雑魚寝だったし、なんかこっち戻ってきても同じ様にみんなで寝ているんよ。まあ、年齢不詳も交じってはいるが見た目、1番上でも10才そこそこの子供ばっかだからなぁ?
「ちぇ、で、こーてーの所行くの?」
「まぁ、呼ばれたんだし、行ってみんとなぁ、戦力が欲しかったってのも確かだろうけど、真意が読めん」
これだけ古代文明を再現できてる魔導帝国が、そうそう戦力的な不安を持ってるとか思えんのよ。
「ふ~ん? いってら~。土産ヨロ~」
「……あったらな」
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招待はされてるけど、二人っきりでって事なんで、正面からお城にって訳にもいかんだろうと考えた俺は、取り敢えず冒険者ギルドに足を運んだ。
そもそも話持ってきたのギルマスだし、面会方法なんかも聞いてんだろ。
「ち~っす。御用聞きに来ましたぁ」
「……ここ、執務室なのだが?」
書類書きをしていたらしいギルマスの部屋へ直接GO。うん? 俺がグラスん所行くときは、大体こんなんだぞ? 何でギルマスは驚いたような顔してるかね? え~と、後ろに誰かいるんか? 気配は感じんのだが。
この俺の気配感知を掻い潜れる猛者が居るというのか!?
「いや、不思議そうに後ろを振り向かれても、ここには私と君しかいないぞ?」
「……で、どうやって連絡とるん?」
「いや、その前にどうやって誰にも気付かれずにここまで……あぁいや、愚問だったな」
何でか、溜息を吐きながらギルマスがそう言った。
「それができるからこそ、皇帝陛下もこんな無茶振りをされたのだろうし」
ああ、やっぱ無茶振りなんだ。俺が苦笑していると、ギルマスは鍵の掛かった引き出しの中から一枚の書類を出し、俺に手渡した。
「ここで覚えて返して欲しい」
「うん?」
成程。これ、お城の見取り図じゃん? つまりは最高機密。本来なら、誰にも見せちゃいけないし、知ってる者は下手すりゃ物理的に首が飛ぶ。
要するに皇帝サイドから見ると『あなたをディ・モールト(非常に)!! 信用してます』って、言ってる様なもんなんだな。
ただし、ここで俺に見せるってぇ事は、だ。
「忍び込んで来いと?」
「まぁ、有体に言うと、そうだな」
マジかぁ。




