揉め事inギルド
魔導帝国に着いた俺達は、さっそく冒険者ギルドへ。
押し開きの扉を開けると、そこには結構な数の冒険者が集まっていた。これ全員、対ベリアル戦で集められた人間なんかね?
取り敢えず受付でグラスからの紹介状を出す。受付嬢は訝し気に紹介状を持ってバックヤードの方へと入って行ったが、暫くして一人の女性を連れて来た。
何と言うか場違い間バリバリのタイトなドレスの女性。杖持ってるし、魔術職の人かね? そもそも誰さんよ。ただ、不躾な視線がなぁ。見定める気満々ってのが。
「ふうん? 君があの、トールくんかい?」
「どのかは知らんが、D級冒険者のトールだ」
うん? 俺の名前は知ってるのか。と言う事はギルマスかサブマスかね。取り敢えずギルドの偉い人だとは思うが、確証は取れねぇ。ただ、“卿”とか言い出さなかったのは、建前を重視してるからか、それとも知らないからなのか。
「どうでも良いが、何処の誰さんよ。アンタさ」
「フフ、それは失礼した。私は、このクロニクル魔導帝国冒険者ギルド、ギルド長、メイシャン・ベルグ・アラファーファロッジだ ベリーと呼んでくれ」
あー、ギルド長の方だったか。てか、いきなり愛称で呼ばせようとすんなや。『親しき仲にも礼儀あり』ってぇ言葉を知らんのかね? その上、俺達は初対面だぞ、と。
ん? あぁ、これ、前世の格言じゃん。知ってる訳なかったわ。
「おいおい、D級冒険者だぁ? なんでそんなペーペー相手に、ギルマス様が出てくるんだよぉ!!」
「ネロ、黙ってくれないか? 第一、私が誰を相手にしようと、お前には関係がない」
俺とギルマスが話をしている所に粗暴な風体の冒険者が割り込んで来る。ギルマスは、ちょっと苛立った様子で、そのネロと言う冒険者に『関係が無い』と言い捨てた。
これ、アレだよね? 実はネロはギルマスに惚れててとかってパターンだよね。だって、コイツ、俺の方を睨み付けながら、チラチラギルマスの方を見てるし、『関係ない』って言われた瞬間、ショック受けた様な表情してたし。
『【納得】ある意味、王道ですね』
『【嘆息】子供並みの愛情表現デス』
うん、それは俺もそう思う。相手の好印象狙わんと好意なんぞ貰えんわ。それも、相手が望む形でのなぁ。独り善がりじゃいかんのよ。
とは言え、周囲の視線を見れば、この男がそれなりに有名な冒険者だって事が分かる。だって、殆どの冒険者の視線がネロに対する『またかよ』って言う呆れの表情とか、俺に対しての『厄介な事に捕まっちまったな』みたいな憐憫の表情なんやもん。
つまりはこう言った事を何度もやってるってこった。にも拘らず、除名処分やらなにやらにされてないって事は、そうするのが惜しいと思われる程度に優秀なんだろうさ。
ただ、別にコイツを擁護はしない。しないが、変な嫉妬でいちゃもん付けられるのも堪ったもんじゃないし、恐らく大規模な戦闘に成るってのに逆恨みされるのも厄介なんで、取り敢えずの言い訳をしておく事にした。
「確かにD級冒険者だが、俺は、魔物狩り特化だからな、そもそも、だからこそ指名を受けてここに居る」
俺の言葉で、ギルド内の大体の人間が納得したってぇ表情に成る。上のランクの冒険者に成る為には、『盗賊の討伐』やら『護衛依頼』何かを受けなきゃならんからな。魔物ばっかり狩ってれば良いって訳じゃない。もっとも俺がD級なのは、単純にランクアップを断り続けてるからだがね。
『盗賊の討伐』も『護衛依頼』も実はやってるんよなぁ。
それ以外は大体事実だし。
魔族に推薦され、皇帝様に指名されて……何だろうねこの理不尽。
「今回敵対する魔族は、魔物の軍団を操ると聞くからな。様々な魔物と対峙して来た俺の知識が必要って事だろう」
「はぁ? お前みたいなガキがかぁ?」
「……悪いが、魔物狩りだけで6年以上やってる。こう見えても16だからな」
俺がそう言った瞬間、周囲に居た冒険者達の表情が、驚愕のソレに変わった。
まぁ、見えんよなぁ。実際6才だし。




