ご指名入ります
「指名依頼だ」
「いやだよ、俺忙しいんだよ」
お久しぶりなイケメンマッチョことグラスの言葉に、俺は即座に否定の言葉を被せた。公都の支部長が態々こっち来てるくらいの大事だってのは分かるが、だとしてもこれから収穫量の計算とかしなきゃならんのよ。暇ないんよ。忙しいんよ。文官欲しいんよ。
てか、そう言や、文官募集かけてるし、知り合いにも声かけてるにも拘らず、何で来るのが武官オンリーなんよ。その中から文官に引き抜いた奴も結構いるけど、それでも足りんのよ。
むしろ依頼かけるから計算できる人来てください。マジで。
「うぉいぃ!! 内容も聞かずに断るなよ」
「断るよ、普通に。指名依頼ってさぁ。俺、領主よ? 辺境伯なんよ? それに指名で依頼ってどんな猛者だよ」
「魔導帝国、皇帝クロニクルからの直々の依頼だ」
よその国の皇帝から、直々に、だと? 思わずファティマに視線を送ると『【確認】ルールールーを探して来ます』と言って、応接室を出て行った。
そう言うんは家の国王から話が来るもんじゃねぇの? 普通。何で冒険者ギルド経由で来るのさ。
「で? 内容って奴は聞かせてくれるんだろうな?」
「ああ、【魔王】ベリアルの討伐と言う事だ」
「はぁ?」
思わず変な声が出ちゃったじゃんよ。
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「うん? まぁ、ベリアルは【頂】のぉ1柱ではあるがっ! まっさっかっ【魔王】等と名乗るとはなっ!」
知ってるかな? とは思ったが、やっぱり知ってたよバフォメット。ベリアルの事。
いや、俺にも前世での記憶としてのベリアルは知ってるのよ。魔族ではなく悪魔としてのなぁ。確か、ルシファーと並び称される堕天使で、神から悪徳として作られた破壊の天使じゃ無かったか? むしろその属性で堕天しない方が可笑しいって感じの。
何と言うか厨二乙。
「てか、【頂】?」
「うむ!! 80からの軍団、72からの魔族を従えるっ!! 【頂】と呼ばれる四人の軍団長の1人で有るなっ!!」
いや、ちょっと待て、軍団の数のほうが従えてる魔族より多いんじゃが!?
あー、軍団員は魔族じゃない奴のが多いって事か? いや、それよりも。
「え? 魔族って従えられる物なんか!?」
超個人主義だよね? 魔族って。コイツも含めて。軍団とかでって、纏まるってイメージが、まるで無いんじゃが?
「基本無理ではあるっ!! だが、ソレを行えるカリスマ故にっ!! 【頂】と言う称号をっ持っているのだよっ!!」
悪には悪のカリスマがあるってぇ所か。
グラスの話を要約すると、魔導帝国が、ベリアルに、宣戦布告されました。以上。
真正面から宣戦布告されたんだ。魔族なのに暗躍とかしないんな。とか思ってたら、暗躍パートはもう終わってたらしいわ。
つまり、魔導帝国の皇帝さん超有能で、ベリアルの暗躍を悉く潰し『真実は一つ!! 犯人はお前だ!!』とかやってたら、単身王城に潜伏してたベリアルに『クックック、よくぞ見破った!! その報酬として貴様の命を奪ってやろう!!』とかって逆ギレされたらしい。
まぁ、その時は何とか退けたらしいんだけど、その後すぐに宣戦布告されたんだと。
何か2時間くらいのサスペンス映画みたいな事が起こってたんだな。余所の国では。
で、ベリアル単体で魔導帝国の戦力の半分以上が壊滅してて、その戦力の補強の為に、冒険者にも召集が掛かったらしい。
「何で俺かね」
「そっれっは!! 吾輩がっ!! ライッバルッ!! トーーーーーーーールッを推薦していたからであろうなっ!!!!」
いやいや、ちょっと待とうか。なんでコイツが推薦なんぞ出来る。眉間を抑えた俺を見て、バフォメットが更に言葉を続けた。
「魔導帝国と傭兵国は隣国であるのでなっ! 皇帝が傭兵王に相談を持ち掛けたのだよっ!!」
あー成程? それで傭兵王が、自身の国の冒険者ギルドのギルマスでもあるバルバドスに話し、そのバルバドスからバフォメットにって事か。
それで、バフォメットは、俺を推薦した、と。
成程、つまりバフォメットが大体悪いってぇ事だな。




