冴えたOHANASHIのやり方
ゴスロリ少女の名前はエリステラレイネ・ローディクト・スルフォブル-ローズと言うらしい。
確かバフォメットは“姫”とか言ってなかったか?
オークの生肉を手づかみでグッチャグッチャと食べてるエリステラレイネを見ながら、俺は首を傾げた。
「姫……ねぇ」
気品とかそう言うのとは無縁そうな彼女の様子に“姫”って言葉が全くマッチしていない。
まぁ、ストリートチルドレンなんぞしている元公爵家子息(廃嫡)とか居るしな。俺の事だが。
第一、俺の知っている中で姫って、やっぱり元が付くが公爵家の第二夫人しか居ない訳だが……うん、姫って言っても色々あるんだろう。
「で、オマエはどうしてここに?」
「……お前達には関係ないのじゃ」
俺の言葉に、プイって感じで横を向く姫さんに、俺は嘆息した後、アイアンクローを決めた。
「おっごっ!! あ、あだ!! あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!! 痛い!! 痛いのじゃ!! や、やるのじゃ!!」
「オマエ、助けられて、人の獲物ぶんどって飯食わせてもらってその態度は何だ?」
「ちょ、止め、のじゃ!!」
ミシミシと言う頭蓋骨が軋む音が周りに響く。そう言や、もうすぐオスロー達が来る時間だったな。ちょっとばっかり量は減っちまったが、獲物は持ってってもらわんと。
俺はエリステラレイネを鷲掴みにしながら、偽装鎧を隠している待ち合わせ場所に急いだ。
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「じゃ、今日はこれを持ってってくれ」
「ぎっ、がっ、も、もう勘弁し……のじゃぁ……」
「え? あ、あの師匠?」
俺が師事している最中、オスローは目を見開いて「え?」って顔をしていた。
「気にするな」
「えぇ~……」
視線は俺が鷲摑みにしているエリステラレイネに向いてるから、気になって居る事は確かなんだろう。だが、今この姫とはOHANASHI中なのだ。弟子に指示するって理由で止めてやる必要は無い。
第一、姫だって言うなら、礼儀作法は必須だろう。物語に良く居る“ワガママ王女”なんざ、俺は認めねぇ。
最低限でも猫被れや猫をよぉ。
それはともかく。オスローにはイブ達に『今日は帰れん』と言う言伝も頼んでおいた。
「それ、俺の口から言ったらキャルやイブさんに口きいて貰えなくなるんですよ!!」ってオスローが言ってたが、「まぁ、頑張れ」と返しておく。
ぶっちゃけ知らんがな。お前のコミュニケーション不足なんじゃねえのか? それは。
イブ達にあまり心配とかさせたか無いが、色々と事情もある。
特にバフォメットと、バフォメットに狙われてるらしいエリステラレイネを放置しとくのは色々と拙いだろう。この姫がこの辺うろちょろするって事は、当然アレもこの辺に湧いて来るって事だ。つまりは目が合っただけで襲って来る様な凶悪な悪魔様がこの辺うろちょろするって事でもある。
最低でも、俺が倒せる算段が付くか、問題そのものの解決ができるまでは街に入る事も難しい。俺の顔、向こうには知られてるしな。
「あ」
「そう言や」とばかりに、オスローにもう一つ伝言を頼む。
グラスの方に「凶悪な魔物が出現したよ」と言っといてと。何かさらに嫌そうな顔になったが。
若いヤツ等に嫌われてるんか? グラスのヤツ(笑)
いや、一介の準冒険者がギルマスに伝言を届けるって事に委縮してるんだろうけどさ。
「……あの、師匠」
「あん?」
「……」
クツクツと笑う俺に、オスローが声を掛ける。その、無言でさされた指の方に視線を向けると、エリステラレイネが白目で泡を吹いていた。
なんだ、やっと静かになったと思ったら、気絶しただけだったのか。
******
「ご、ごめんなさいなのじゃ」
オスローを街に返した後、俺は再びエリステラレイネと向かい合っていた。
周りをミカ達に囲まれた状態の彼女は、正座の状態で頭を下げる。いわゆるDOGEZAだ。
目を覚ました後、走って逃亡を図ったエリステラレイネ……長げぇな、エリスで良いか。エリスはバラキに瞬殺で捕えられ、空を飛んで逃げようとしてウリに撃墜され、隙を突こうとしてガブリに襲われて泥まみれにされた。
と言うか、あの羽、普通に使えるんだな。
それはともかく、んで、今ここ。
「恩を受けたら感謝して、悪いことをしたら謝るのが人として当然だろう」と言う俺の言葉でこうして頭を下げている訳だ。
てか、この世界にもDOGEZAとか有るんな。
「で、事情は説明してくれるんだよな? 無関係とか言うなよ? こっちもガッツリあのバフォメットと敵対関係になってるんだ」
あ、アレがバフォメットって名前かどうか分からねぇじゃん。しまったな、追跡者……で良いんだよな。
「な!! ヌシ等、バフォメットと遭遇したのか!?」
「バフォメットで良いんかよ!!」
「うん? バフォメットじゃろ?」
合ってたらしい。なら、やっぱりアレは悪魔だったって事か? てか、悪魔が存在するんだなこの世界。
「魔族と遭遇して生き延びられるとは、オヌシ、結構な強者じゃな」
「……魔族? 悪魔じゃなく?」
「うん? 魔族のバフォメットじゃろう? と言うか悪魔なんぞ御伽話にしか出て来んのじゃ」
あ、うん。魔族ね。正直、違いがあまりない気もするが、アレが魔族……
「うん? 邪神崇拝者に追われてんのか!? お前!!」
「う、うむ……」
歯切れの悪いエリスの返事に、つい訝しむ様な目付きに成る。もしかしてこいつ、魔人族って奴なのか?
魔族から改心した種族だったか? ソレの姫で、現役魔族に追われてる……と。
うわぁ、分かっちゃいたが厄介事以外何物でも無いわ。
俺がげんなりしていると、暫くブツブツ言っていたエリスが、おもむろに口を開いた。
「のう、オヌシ、ワシに手を貸してはくれぬか?」
さっきまでとは違い、神妙な面持ちで俺を真っ直ぐに見るエリス。
そう真面目に来られると、こっちとしても茶化す訳には行かないな。確かに厄介事かもしれないが、袖振り合うも他生の縁と言うし、実際、バフォメットとは既にガチでやり合っちまってるしな。
そう思い、俺も襟を正す。
「……詳細は、聞かせてくれるんだろうな?」
「力を貸してくれるとなれば、協力者なのじゃ。当然、理由くらい説明するのじゃ」
まぁ、どの道、この先バフォメットとやり合う可能性が高いってんなら、なるべく早く決着はつけなくちゃならないし、目の前に困って居るヤツがいるんだし力を貸すってのも吝かじゃない。
それに、邪神関係って事は、放って置くと世界滅亡のピンチとか成りそうだし。
本当は公爵家の兵士とか巻き込めれば良いんだろうが、後でグラスと連絡を付けなきゃな。ガブリ辺りにオスローを呼んで来て貰うか?
「のう、オヌシ、理由を説明する前に聞きたいのじゃが……」
「あん?」
「オヌシは人間なのか?」
またこのパターンか。




