帰って来たぞと勇ましく
「何じゃこりゃ」
ようやっと帰って来た我が家の様子に、つい声を漏らす。いや、おおよそ、この原因については予想が付くんだがね。
『【予想】分け御霊の仕業ですね』
「アオン?」
「ワンワン!!」
「ワオン!」
それ以外だったらむしろ驚きだわ。
家の館の真後ろに、巨木が立ってるんだが? 群れ成して。
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領主館で出迎えてくれたキャルの話によると、大興奮で分け御霊に襲い掛かったヴィヴィアンから逃げる為に、分け御霊が巨木生やして引き籠ったらしい。うおぉぃ、竜種!! 変態薬効卿に負けてんじゃねぇよ。お前がアレに負けると、アレだからな? アレもドラゴンスレイヤーに成るんだからな? ドラゴンスレイヤーの名が地に堕ちちまうからな?
「うほぉ!! 何でしょうコレェ!! 様々な植物が融合した様な組成をしてるんですよぉ!? 信じられますかぁ!!」
そのアレが、分け御霊が引き籠った巨木のあちこちを削り取っては、試薬を付けたり煮出したりしながら奇声を発してやがる。
何と言うか、ファティマ達を前にしたマトスン並みの変態さ加減なんだが?
どうでも良いから領館の内部に、それも執務室に勝手に研究室作らんで貰えませんかね!? おまい、自分の店作って貰ってたよな? 俺に借金までして!!
流れる様に接敵し、反応できないスピードでストマックにクローを喰らわす。『ぶふぇ!!』とか乙女として有り得ざる声が聞こえたが、スルーする。
「な・ん・で・こ・こ・に・い・る・ん・だ?」
「ちょ~! トールさん~!! 何で怒ってるんですかぁ!! てか、乙女のぉお腹を鷲掴みってぇ、ちょおぉ!! まってぇ!!」
むしろ、なんで俺に怒られないとか思ってるのかが疑問なんじゃが!?
「いや、だってぇ、新種の竜種ですよぉ!? まだ見ぬ植物ですよぉ!! 調べるでしょぉ!! 新たな薬効を求めてぇ~!!」
「だからと言って、勝手に俺の執務室の一角に研究設備を作るな!!」
しかも俺の執務机を端に寄せて!!
「だってぇ、この場所が竜種の木に一番近いんですよぉ~!!」
数分程度の時間が惜しまれる様な素材じゃないし、距離でも無いだろうが!! 絶対に自分の好奇心が抑えられなかったが故の暴挙だろ、コレ!!
ああ!! 館に戻ってすぐに王都に向かった所為で、周囲に分け御霊が竜種だって事を黙っておくように頼むのを忘れてた自分が恨めしい!!
だってイブを窘めたり分け御霊にプラーナ接収装置を作ってやっるのに忙しくって、頭からポロっと抜け落ちてたんだからよぉ!!
まぁ、過ぎ去った過去を嘆いててもしょうがねぇ。取り敢えず問題は、この変態だ。
「そもそも、誰がここに実験台作って良いって許可出したよ」
「え? キャルちゃんがぁ」
「何考えてやがる!! あの駄メイド!!」
「『トールちゃんのハーレムに入るならここで研究して良いよ』ってぇ。だからわたしも即『おっけぇ』って返事しましたよぉ」
「おまいも何考えてやがる!! この変態薬効卿!!」
何か『ちょ! さらに力がぁ!!』とか叫んでいやがるが、スルーだ!! 何時俺がハーレム作るとか言ったか!?
てか、何で、アイツがそんなもんの許可をする!?
それ以前に、俺との年齢差考えろや!! ヴィヴィアン!!
「取り敢えず、空いてる部屋は使って良いから、執務室は止めれ」
「うぅ、お腹に手形がぁ」
自業自得だ馬鹿者。
常識で考えれば執務室に実験器具入れたら拙いってのは分かるだろうが。薬品によっちゃぁ有毒だし、物によっちゃぁ紙とか焦がすからな?
「でも、領主館の中に入れちゃう所がトールちゃんの優しい所だよねぇ」
「おまいも後でSEKKYOUだキャル」
ヴィヴィアンの悲鳴を聞きつけたのか、執務室を覗き込んだキャルが、そんな事を言っう。いや、ノックしろよ。自分家か、いや、自分家でもあるのか。だとしてもノック位してくれ。
「え? 何で? アタシはちゃ~んと忠告したよ? 誰にでも優しいと勘違いされちゃうよって」
「領主の館の部屋、勝手に貸し出したり、求めても無いハーレムに入れようとか画策するのはそれとは違うだろ」
「えぇ~! 惚れた男の子の近くに居るのは、女の子の喜びの一つなんだよ?」
「それだと、おまいも俺の事が好きなように聞こえるんじゃが?」
「好きだけど?」
うん、絶対に何かが違う。気がする。恋愛云々って事じゃないって、俺の中の何かが囁いてる。……ゴーストかな?
「だとしても、ちょっとやり過ぎな感じはするから、やっぱり後でSEKKYOUな?」
「マジで?」
「本気と書いてマジで」
『うへぇ』って顔で肩を落とすキャルをみる。確かに好き勝手してるキャルには反省して貰いたい所だが、ただまぁ、こういうやり取りが出来る辺り、帰って来たなとか思っちまうのは、俺の甘さ故なんだろうかね?




