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国王様とお話

 応接室のソファーの向かいで、国王様(セルヴィスおじさん)が笑いをかみ殺して震えている。

 周囲に侍る騎士やら侍女さんやらはそれを見てみないふりで待機してる訳だけど。流石はプロや。全く表情にも態度にも感情って物を見せちゃいない。


「いやはや、報告は受けていたが、まさか本当にたった一人で終わらせてくるとは! それも、終わったら終わったで、とっとと帰ってくるとはな! これでは向こうは面目を潰された様な物だと分かっているのか?」

「俺は、向こうの王様に『どうしても』って頼まれたんでやっただけですよ? 終わりゃ帰って来るのが当たり前でしょう?」

「報奨も受け取らず、戦勝パーティーにも出席せずにか?」

「だとしても、あの国が俺に何が言えると?」

「まぁ、確かにな」


 ()と言う脅威を肌で感じたあの国に貴族連中が、何某かの文句を言って来る所なんざ全く思い浮かばんね。

 藪を突いて蛇を出すじゃないが、余りに強大な力を目の前にして畏怖や恐怖を覚えない方が稀なんだし。

 そう言う意味では、反応的には普通は、あの国の貴族連中のソレの方が正しいんだろうさ。魔人族女王(エリス)この国の王(セルヴィスおじさん)の反応の方が可笑しいってだけで。まぁ、感謝はしてるけど。


 いや、実の事を言えば、報奨云々は辞退したって訳じゃぁない。それ決めるにもパーティー開くにも時間が掛るって言うから帰って来ただけだ。だって、こっち長旅で領地を長期不在だった所へ今回の話だぜ? それも終わって、帰ろうとしたら。向こうの王様がどうしてもって事でした戦争への参加だ。これ以上時間を取られる訳にゃいかんのよ。


「もし文句を言ってきたら、今回の褒賞は、こっちの都合で帰ってしまった無礼と相殺って事にして貰うってことで。あぁ、文句を言って来なくても、そう通達してくれると有り難いっすわ」

「余を伝令代わりに使うか? まぁ、お前がそれで良いと言うなら余も構わぬぞ? そうなれば、向こうに大きな貸しだけ作った事に成れるのでな」

「今回、結構無茶言って来てるんですから、その位やってください」

「ククク、分かったぞ、この叔父さんに任せておけ、甥っ子よ」


 いや、遠戚ではあっても叔父でも甥でも無いからな?


 てか、あの国、一時的にでもクーデターで王城乗っ取られて、王都周辺に有った唯一の穀倉地帯も今回の戦闘で壊滅状態。国王の求心力も下がるだろうし、全く活躍しなかったおかげで、貴族間の功績争いも逆に激化するだろう。

 かと言って国力の弱化を考えればクーデター派に与してた貴族達は降爵は出来ても廃爵は出来んだろうな。ただし、国力自体は確実に落ちる。


 そうなると、どうしたってあの国は家の国に頼らざるを得ない訳なんだわ。

 それに今回の事を好機と見て攻め入る様な国が有れば、増々こっちに頼らざるを得ん事に成る。そうなれば、事実は兎も角、家の国の属国だと周辺諸国には見られる事に成る訳だ。


 イヤだねぇ、大人の生臭い政治の話は。まぁ今回、俺も加担してるんだけどもさ。


 実際、俺が救出したって時点で、『後は自分達の力で』ってなってりゃ問題になる事なんざ出なかったんだ。

 にも関わらず、“その先”を要求して来て、あまつさえ協力するって段階で、もろ手を振って喜んだ訳だ。でも、それって、味方の貴族の力を信用して無いって事じゃんね?

 特に公爵なんかは、根回しの動きを見ている限り、相当に優秀な人材だと思う訳だ。にも拘らず、あの王様、その事を当然の様に感じて、感謝の念って物が見えなかった。

 俺の脱出の手際見て、ドラゴンスレイヤーの力ってのがこれ程の物であるならってぇ、確実な勝利の為の算盤弾いたって所も有るんだろうし、ドラゴンスレイヤーが我が国に協力してくれる程に近しい関係だとかって、周辺諸国に牽制かけたかったってぇ事も有るんだろうけどさ。


 その所為で、まさか自分達の首にまで枷が嵌るんだとか思いもしなかっただろうさね。


「所で、余の方からの報酬はどうする?」

「あ~……貸し1つって事で」

「ふむ、お前の功績を考えると怖い所だが……」


 特に何も考え付かんのよ。割と自前で用意できるからさ。そもそも領主としては税の事とか交渉する所なんだろうけど、俺ん所、免税して貰ってるしさ。

 ぶっちゃけ爵位とかこれ以上貰っても困るだけだし。


「取り敢えず、また領地の運営に集中したいから、あんま呼ばんでください」

「ああ、分かった」


 鷹揚に手を振った国王様だったが、何某かを思い出したのか『クククッ』と笑い声を漏らす。


「何か?」

「ああ、いや、話に聞いてる、お前の領地がだな……あー、いや、直接見た方が早いのか」


 ニマニマと悪戯っ子の様な笑みを浮かべる国王様に、イヤーな予感をビシビシと感じながらも、これ以上の事は話さないと決めた様に口を噤んだ最高権力者の口を開かせる方法なんざ持ってないんで、このままモヤモヤとした気持ちを引きずったまま、俺は席を離れるしか無かった。


「まぁ、しっかりやると良い」


 最後の最後まで、人の不安を煽る様な物言いをするなぁ。 

 いや、ホント何よ。

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