刹那、輝いて
褐色の肌に灼眼炎髪。服装こそ上等な仕立てであるものの、その見た目は10才程度の子供にしか見えない。
そんな俺が、眼前に現れた所為だろうが、ジルドレーの動きが一瞬止まる。
『【混乱】え? マ、マスター?』
まぁ、混乱してるのは相手だけじゃなく味方もだが。
策を潰せば勝てる? 箔付けの為のお飾りの栄誉? 本気でそう思ってるから、こうして出て来たんだろうがね。そしてそれを支持する連中が居るって事は、クーデター軍のお偉いさんの中には、そう言った思考が蔓延してるって事でもある。
クーデター軍を見れば、最奥に、やけに立派な鎧を着ている連中もチラホラ。あれが向こう側に付いた貴族連中なんだろう。
派手な装飾を大量に付けて歩兵の後ろ辺りでふんぞり返ってるのが軍部のお偉いさんか。こういう場に態々出てきてるってだけでも、まだマシ……なのかねぇ。
と言うか、コイツ等が全員、まさか、ここまで自分達に都合の良い事だけを並べ立てて居られる程の能天気が揃っているとは、このトールの目をもってしても見抜けなんだわ!!
よっぽど、クーデターが上手く行きすぎたんだろう。その所為もあってか、自分達に都合の悪い事は耳に入らんらしい。ただまぁ、それなりに情報は集めたみたいだけど、その精査を全くやって無いってのが、丸分かりだわ。
自分の理想が先に在って、情報は、それを補完できる物だけを使うとか情報って物の意味が全く無いんじゃが?
ただ、そんな事を本気で思ってるって事なら、今の状態で負けたとしても、また、自分達に都合の良い言い訳を考えて『あれは出会いがしらの事故の様な物で仕方なかった、運が悪かったんだ。だが、次はこうは行かない』とかって言い出しかねない。
ならば、言い訳なんぞ出来ない位にやってやるさ。確実に、な。
「あんまりに、小細工を警戒してる様だし、小細工に気を取られて実力とやらが発揮できないと言いそうだから、こうやって、小細工なんざ出来ない様にしてやったぞ? どうした? 来ないのか?」
まだ成人してさえ居ない様な俺の見た目に、敵味方問わずに騒めき始める。いや、実際6才なんだから成人なんざしてないんだが、公称だと16才って事になってるんだがな。そう言った情報までは手に入れられてないって事か?
ただ、ざわつきさ加減を見ると、俺の容姿が幼いって事で侮って居るってのとはまた違う事でざわついてるってぇ感じだが……
「……美しい」
ん? 何かジルドレーの方から変な言葉が聞こえて来たんだが……俺が訝し気に首を傾げると、ジルドレーが『んんっんっ!』と咳払いをした。
「このような少年が、つまらぬ戦で命を散らすのは心苦しい。お前、私に仕えないか?」
「……言ってる事が180°変わってんぞ?」
何、さっきの呟きは聞き間違えじゃなかったって事か!? 何考えてんだ? ジルドレー。
「ん? ジルドレー?」
「おお! さっそく私の名前を憶えてくれたのか! 麗しの少年よ!!」
なーんか聞き覚えのある名前だと思ったら、もしかしてジル・ド・レか?
『青ヒゲ』じゃねぇか!! ジル・ド・レはフルネームでファーストネームな訳じゃねぇとか、色々突っ込みたい所は有るが、何だこの微妙な違いは!! ってか、前世との微妙な共通項は!!
まぁ、青ヒゲ=ジル・ド・レは説の一つで実証はされてないんだが。
ジャンヌを連れて来なくて、心底良かったわ。いや、家のジャンヌは名前の参考にしただけなんだけどもさ!
ただし、家のジャンヌ、人型だとウィザードだが聖武器形態だとランス型なんで、目の前の青鎧の武器と被ってて、ちょっとモヤるんよね。
まぁ、それはそれとして。
「仕える気なんざねぇよ。そもそもあんたの所属してる派閥は、今日、壊滅するんだからさ」
「むふん、残念だ。だが、気の強い美少年を屈服させるのもまた一興。かかってくるが良い!!」
何か後ろの騎士達が『また、卿の悪い癖が』とか『あの趣味さえなければ』とか言ってるけど? まぁ、ジルドレー本人は気にしてないみたいだけんどもよ。
てか、ジルドレーの中じゃ、俺は傀儡の神輿で確定してる様やね。ここまで上から目線て。
まぁ、傍から見れば、ガッチガッチに武装した馬上の騎士と、武装すらしてない未成年の戦いなんだろうがさ。
ここまで俺の戦いを見せつけられてきてる筈の王国軍の兵士からも、若干心配そうな視線を感じる。
全く心配して無いのはミカ、バラキ、ウリ達の三頭とファティマ、オファニム、ケルブ位か? いや、遠くからルールールーの視線も感じるか。こっちも心配なんぞしてなさそうだな。
俺は完全に脱力した状態で、ジルドレーを見上げる。さっき自分で言った通りに、俺が掛かって来るまで待つつもりらしい。
アホか。アホだな。まごう事なきアホだ。戦争で相手の一撃まってるとか。
じゃ、まぁ、遠慮なく。
ここが両軍合わせて3万人規模の人間が対峙している場所だって事を忘れるほど、静まり返っている。最早犬達が欠伸をしながら首を掻いてる「シャッシャッシャ」って音が聞こえる位に。
そしてその数瞬後、ガッシャ――――ン!! って言う音が響いた。俺にぶっ飛ばされたジルドレーが空から自由落下して地面に叩きつけられた音だ。
誰も何も口にしない。呆然としてるんだろうな。全く。何だかなぁ。
「で? 次にぶっ飛ばされたいのは誰だ?」
ジルドレーと一緒に来ていた騎士達は、 エライ勢いで首をブンブンと横に振った。




