正攻法と搦め手
国王軍は、勝利の歓喜よりも、戸惑いの方が大きいっポイわ。まぁ、当たり前だよな。
軍に対して無傷で勝利できる個人という存在。それも策を弄してとかではなく真正面からぶつかってでなぁ。だが、使うと決めたのはお前達だ。それも、どうしてもと懇願して。
名前だけは聞いていたであろうドラゴンスレイヤーと言う物がどう言う物なのか、これでハッキリと分かっただろう。
果たしてこれは、人に向けて良い力かどうか?
多分、顔を青くしてる連中はこう想像してるはずだ。『あの力が自分に向けられたとしたら』ってな。
信頼もクソも無い状態で、手に余り過ぎるであろう力を見せつけられれば、誰だって、そんな風に思うのは当たり前なんよ。
この国の連中はようやっと、その事に思考が追い付いたらしいわ。
まぁ、もう遅いんだが。
王様は気が付いたみたいだが、既にドラゴンスレイヤーが参戦してるってのは、各所に通達済みだ。
今更、撤回も出来んだろうさ。そんな事をすれば、この戦いには参加してない味方の貴族連中の士気はだだ下がりだし、逆に相手は士気が上がるだろう。
かと言って、たった一人で軍相手に完勝したからなんて言い訳されても、信じられるもんじゃない。だからもう、撤回する術がないと言った方が正しいか。
『【嘆息】ようやっとマスターも、自身の非常識さ加減を納得されましたか』
ファティマさん、ちょっと黙って居ようか。
『【了解】御意』
そして悪いが、今後も敵が立ち塞がる度に、俺が出張らせて貰う。俺だけが戦功を上げて行くって事に、他の貴族連中から突き上げが有るだろうが、この戦いを見て尚、俺に意見が出来るんだろうかね? サウペスタ王様は。
言っちゃなんだが、それだけの胆力が有るなら、端っから俺の名声を使おうなんて思わんだろうさ。
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一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は必然って、誰の言葉だったか。単独で相手の軍を撃破する事が三度続いた後、もう何て言うか、国王軍が迫った時点で白旗を上げる領主が増えた。ってか、白旗を上げる領主しか居なくなった。中立って事だった領主ですらなぁ?
その代わり、暗殺者が送られてくる事が多くなったんだがね。
そもそも、寝てたって気配がすりゃ起きるのが冒険者だぞ? 例え、俺が気が付かなくたって、犬達の鼻から逃れられる訳きゃねぇっての。
特にバラキはまったく容赦しねぇからな? 骨をかみ砕かれた暗殺者をどんだけ治療したか。良い悪いで言や確実に良い事なんだから、思いっきり褒めてモフってやるけど。
ただ、俺を殺しに来た輩を俺が治療してやるってのもなぁ。
治療してやると、面白い様にペラペラ喋ってくれる様に成るんで有り難いんだが。まぁ、予想してた事だけど、相手からだけじゃなく味方側からの依頼で動いてる暗殺者の多い事多い事。
そして確実に、買収されてるであろう兵士がいる上、その事を黙認してんだろ、あの王様は。貴族連中からの突き上げの板挟みで。
確かに戦功を上げるのを邪魔してるのは俺なんだが、オレが居なくなったからって、必ずしも依頼主が活躍出来るって訳じゃないのになぁ?
取り敢えずとっ捕まえた暗殺者はサウペスタ王に渡しておく。コイツ等を見て、王が何をどうするのかは分からない。分からない、が……無傷で釈放なんて事には成らないだろう。そんな事すりゃ、俺の面目潰す事になる訳だし。
そんなこんなで、移動して暗殺者撃退して時々白旗を受け入れる。そんなルーチンこなしてたら、いつの間にか王都前まで辿り付いてたわ。
本来なら麦の種まきの真っただ中のハズなのに、クーデターなんざ起こしやがるから種まきも儘ならなかったらしく、耕やかされもして居ない状態で放置してある。
こんな事、続けていたら、冗談じゃなく国力が低下するだろうに。そもそも、こういった物を輸入に頼ってて、国としての立場が弱いから、発言権を高める為に侵略戦争を起こそうとして、クーデターやらかしたんじゃねぇんか? 本末転倒も甚だしいんだが。
それでも、まだ土の硬い農耕地に、整然と並ぶのはクーデター軍、結構な数が居るが俺の噂は届いてないのかね?
まぁ、良いや。
「王様、今回も俺が出るからな?」
「いや、それは……」
俺がそう言うと、王様が何か言いたげにチロチロと見てくる。大方、他の貴族からの突き上げが激しいんだろう。だが、俺は言ったよな?
「やるならきちんとやるって言っただろ?」
「それはそうだが……」
言葉に詰まる王様を横目に、俺はまた、一歩進み出る。さて、今回もとっとと片付けますかね。このアホらしい戦争を終わらせる為に。




