終わったと思ったら
『拙速は遅巧に勝る』とかって格言がある。まぁ遠征する場合は色々準備を整えなきゃ軍は動かせんし、それも、とっとと決着つけんと色々困った事になるぜよってな事を孫子さんが言ったらしいんだが、何か前世では、『とにかく早い方が良い』的な意味合いに使われる事の多かった言葉だった覚えがある。
たださ、『速かろう悪かろう』って言葉も有る位なんだから、その辺バランス感覚なんじゃね? とか思うんよ。
それは兎も角、俺が一晩での王族の脱出を終えてから、あっと言う間に臨時政府の立ち上げを終わらせ、相手の足並みも揃わん内に宣戦布告まで済ませちまったんよ。
後は降伏勧告をしながら王都まで攻め込んで雌雄を決すれば良いって所か。
本来だったら半年は掛ろうかと言うソレ等を俺が王都で『公爵領の方で準備進めてくれ』って言ってから半月も経たない内に進めちまったんだから、ルールールーの一族の手腕って大したもんだよな。
まぁ、それに応えられる公爵さんも凄いんだが。
多分、ルールールー達ってか、そもそもの国王様から話を貰った時点で、そう言った所々諸々を想定して国王派の各貴族に激を送っておいたんだろう。腰が軽いってか、先見の明があるって言うのかね?
その上で愛妻家で、第二夫人までの妻達と3人居るお妾さん全員に愛情を持って接してて、家族仲も良好だって言うんだから大したもんだ。それもちゃんと、男子ができなかったから、貴族の嗜みとして妾さんを迎えたにも関わらず、しっかり愛情を注げてるって辺り。
どこぞの『真実の愛が~』とかって事、言い出しかねん公爵も見習って欲しい物だわ。今更だし、俺がアレを好きになるって事たぁ絶対にないけど。
これで、内戦と言うか内紛と言うかが早期終結してくれるんなら、文字通りに『拙速は遅巧に勝る』って事に成るんだがね。
兎も角、俺の頼まれた仕事自体はここまでのハズなんだが……
「頼む! 力を貸してくれ!! 最初だけで良いのだ!!」
サウペスタ王、シャルルマーニュ・インベントス・サウペスタが俺にそう頼んで来る。実際、他国の貴族でもある俺がここまで内部事情に手を貸してるのも不味いと思うんじゃが、その辺どうなんだろ?
セルヴィスおじさん的には支援する事は決めっちまってるんだから、それ程問題じゃないのかね?
ルールールーに視線を送ると、頷いてその場から消える。俺の目から見ると全ての気配を絶って、普通に出て行ったんだが、周囲からは消えた様に見えてんだろうなぁ。なんかざわついてるし。多分、確認を取りに行ってくれたんだろう。
「噂に名高いドラゴンスレイヤー殿がこちらの陣営に居るとなれば、それだけで兵士の士気は高まるのだ!!」
どうやら、この王様、俺の事を知ってたらしいわ。案の定というか、シャルルマーニュ国王の言葉を聞いた公爵も、俺に対して驚きの表情を見せる。
だが、まだ情報が古い。何せ俺は今、ドラゴンテイマーでもあるんだからな!!
いや、領地帰って即呼び出し食らって、おっとり刀でこっち来てるんだから、知ってても可笑しいんだがよ。分け御霊が竜種に見えるかどうかって事は置いといて。
そもそも、この人等、幽閉されてて情報なんざ入って来るはずなんざねぇんだし。
まぁ、それはそれとして。
「……俺の事を知ってるってのなら、俺がデストネーチェ王国の貴族だって事も知ってるって事で良いんですよね? あんまり他国の貴族に借りを作るのは拙いんじゃないですか?」
「そんな物、その方の国に支援して貰う時点で大きな借りに成っておる。だからこそ、この戦いは負けられぬのだ」
まぁ、“力を借りました”“でも負けました”って事に成れば、話にもならないわな。だからこそ確実な勝利が要るって訳だ。
「その方に戦ってくれとは言わぬ! 名を貸してくれるだけで良いのだ!!」
名を貸すだけ、ねぇ。それが正式に参戦してるのと同義だって事、分かってるのかね? この王様。いや、分かっては居るんだろうな、その上で、あえて説明しない。事実上戦争に参加しないならって事で、名前だけ貸しましょうって輩も居るんだろうが、それって責任だけ被せられるって事なんだがね。
「……それは出来ませんよ、参加するなら、キチっと参加します」
「おお!!」
「ただ、その結果起きる事についての責任は、貴方にも被って貰いますよ?」
「う、む、それも覚悟の上だ」
はい、言質取りました。これで、俺が何やったとしても、サウベスタ王がケツ持ってくれる訳だ。もちろん国王様が許可出したらだけど。
そしてあえて邪悪に嗤う。よく知りもしない相手に、そう簡単に安請け合いをしちゃいけませんよ、と。
ちょっと王様、顔色悪く成ったけど、まぁ、その辺は自業自得って事で。
そもそもクーデターなんて許したあんたらが悪いんだしね。
つっても、ルールールーから国王様の返事を待たんと、俺も動きようが無いんだわ。




