救出したんで
ア・テンションプリ~ズ! 本日はオーサキ航空、1904便、搭乗有難うございます!! この便はデルーセ公爵領、直行便でございま~す!!
「う、うわぁ!!」
「ひぃ!!」
「ひゃぁ!!!」
「ととっ、飛んでるぅ!!」
「おお!! 神よ!!」
「きゃー!! いやぁ!!」
「落ちませんように落ちませんように落ちませんように!!」
ははは、騒がしいわ!! なるべく静かにっつったのはおまいらだろうが。
はい、と言う訳で、王家の方々を連れて、俺は今夜空を走っている訳なんですがね。とは言っても、王族一家、馬車一台に詰め込まれてるんだけどさ、流石に二台も三台も馬車担げねぇんで、少々狭いのは勘弁して貰おう。
そもそも。俺がプラーナ不足とかで落ちる事なんざねぇからな? 自分の限界位置がどの辺りにあるかなんて、把握済みだっての。オファニムで増幅強化、ケルブが出力増加をしてるから、多分3日位はこのままの状態を維持できるわ。もっとも、公爵領迄3時間くらいしか掛らんが。いや、普通に陸路で行けば半月は掛かる距離が有るんだがね。
王家の脱出は簡潔迅速に、って事で、王様に手紙を書いて貰って塔に幽閉されている全員にまわした。あんまり護衛がうたた寝し過ぎてると、何かやってると感づかれちまうんで、なるべく回数は少なく、それでいて効果は高く成るように。
多分地中とか掘って行けば、こっそりひっそりで、全員が覚悟を持つまで待つ事も出来るし、俺の負担も少ないんだろうが、それだと、どのくらいの時間が掛るか分からんし、その掘っている抜け穴を見付けられたら、その時点で詰みな訳だからな? 時間を掛れば発見されるリスクも高まる。これだけ好き勝手やってる様に見えても、それほどこの国の諜報が杜撰だとか思ってねぇよ? 俺。こっちだって結構な神経削って潜入とかしてるんだし。
なんで、最もシンプルな方法を選択した訳だ。
つまりは、一気に高高度まで駆け上がって、そっから亜音速で移動。この世界、空を飛ぶ魔物ってのは存在してはいるが、それ程個体数は多くない。空ってのは遮蔽物が無い分、弱肉強食での生存競争は、地上の比じゃないからな。
だから何処でも、上空、それも高高度ってのはあまり意識されない。それ故の死角。
なんで、塔に居る王族を一ヶ所ずつから集めて馬車に待機して貰って、そっから一気に脱出。お城には馬車なんて幾らでも有るしなぁ。
折よくってか、この間の旅で、高高度疾走が出来る様に成ったし、丁度良かんべって事なんよ。確かに王族一家と馬車も込みだと結構な重量に成るが、今更その程度の重さはどうと言う事も無い。
確かにお城の馬車なんだから、管理されてないって事たぁ無いんだが、普通使いの馬車だったら、それ程厳しい訳じゃない。何人かの兵士が見回りに来るって程度な。その時、態々馬車の中までなんて確認しつつ見回ったりはしないもんなんよね。使う時は城門から出入りするし、確認するならその時でだってかまわない訳だし。
まさか、馬車が空飛んで脱出するなんて夢にも思うまいて。
王家一家を公爵領に連れて行った後は、城に残った侍女さん達とかも迎えにもう一便出さなきゃ行かんので、あんまり手間ぁかけさせんで貰いたい所。だって、『侍女さん達を置いては行けません!!』とかって主張したんは王家の人達なんだし。
侍女だったりするなら城の外にまで連れてきゃ、どうにでもなるだろうとか思ってたんだが、侍女の人達も、結構、良い所お嬢さん達なんな。
確かに市井に紛れさせる程度じゃどうにもならんな。持ってる常識が違い過ぎて。
いや、だって、基本“いつもニコニコ現金払い! ぼったくりも有るでね”ってな市井に“支払い? 何時もの様にツケにして、後で家に取りに来なさい”な令嬢が紛れたとしても、にっちもさっちも行かなくなるだろうって事は、火を見るよりも明らかじゃんか。そもそも冒険者ギルドで護衛雇って乗合でもレンタルでも良いから馬車に乗って公爵領まで旅ガラスってな事が出来るのかって問題も有るし、基本的に飛び込みで宿に入れるのかとか、そもそも一般的な木賃宿でまともに眠れるのかってぇ心配も出て来るからな。
ただ、さっきも言ったが、俺一人で馬車二台も三台も担いでってのは無理がある。重量云々ってより、そうやって人を乗せた馬車を例えば片手ずつで鷲摑みにしたとして、馬車本体が持つのかって方で。
ラミアー居れば、もうちょっと簡単に行けたんだが、なるべく秘密裏にって事で連れて来んかったからな。
まぁ、その為だけに今更連れてくるのも、なんだかなぁとかって思うから、態々迎えに行ったりはせんが。
なんで、ファティマと犬達は、侍女さん達のお守りに残って貰ってる。そっちを迎えに行く時には一緒に回収するけど。
まぁ、ウリなら、空中でも走れる気がせんでも無いが、流石に亜音速には着いて来られんからなぁ。
バラキが納得いかなさそうだったんで、満足するまでモフって来た。『そ、そんな安い雌じゃないんだからね!』みたいな目で見られたから、そりゃもう、念入りに、ツヤッツヤに成るまで。




