OSHIOKIするぜ!!
あれ、風魔法かな? それとも水魔法なんかな? 男達が空中渦潮でグルングルン回ってる。
もしかしたら合成魔法? そう言や、イブ使えるしな、合成魔法。
何が凄いかってぇと、10人以上居る男達全員を巻き込む程の術の規模だけじゃなく、細かく空気を操って、水中なのに呼吸を可能にしてる辺り。流されまくって装備も脱げて、でも必死で藻掻いてってのが、傍から見ると、まるで滑稽劇の様だわ。
何ちゅうか、流されまくるぜ水中牢獄、って感じ?
よい見世物に成ってるみたいで、周囲の観光客は軒並み歓声を上げてるわ。
『ハイハイ、おひねりはこのなかへ~』
即座に編み上げた籠に、おひねりを集める分け御霊。一瞬で編み籠を編み上げる早業は、流石植物系生体兵器だが、どこで覚えたそんな物。
いや、社に居たんだよな? 大道芸くらい来てたのかも知れんな。
「トール、様、馬鹿にする、許さ、ない!」
……いや、イキったガキの発言なんて、あんなもんだぞ? イブ。
何か、結構な感じで憤ってるイブを見てから、渦潮の中の野郎共に視線を移す。
ああ、もがいてるもがいてる。上へ下へと自由自裁に流されまくって、着ている物もはだけたりずり落ちたりで、粗末なモノもボロンボロン。溺れる心配が無いって事だけが救いだろうか? 多分本人達は、必死過ぎてそんな些細な違和感、気が付いていないだろうけど。
ちょっと調子こいてただけなのになぁ? あれだ、失言で辞職しなきゃいけない政治家みたいなもんだ。うん、自分で言っててちょっと違うと思ってしまった。
今までも同じ様なシュチエーションは有ったんだが、これまでは、イブよりファティマの方が先に手ぇ出してたしな。
今日は、向こうが手を出すまでって止めてたから、イブの方が先に動いちまったってえ訳だ。今まで先を越されてた憤懣も有ったんだろう。そのストレスも大爆発してるってぇ感じ。
う~ん、イブさんの俺への敬愛レベルが、信仰心じみて来てるのがちょっとなぁ。
あ、男達が体力使い果たしてグッタリしてきた。イブにストップをかけねば。
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ずぶ濡れで伸びた男達を放置して帰り支度。今回の旅で顔見知りになった奴等に挨拶して帰るかとも思ったんだが、まぁ、どうせ、もう一度来るつもりでは居るんで、帰りの挨拶はしない事にした。そもそも、それぞれ別れる時には挨拶してるし。
そう言う訳で“扉”の在る山へGO!
「あ、あの、大丈夫なんですか? こんなに街道を離れて……」
「うん。大丈夫」
娘さんの1人の疑問に、俺は軽い調子で頷く。まぁ、その心配はもっともな事だ。何せこの大陸では、人間、魔物の領域の境がハッキリしてて、街道を使ってる限り、そうそう魔物と遭遇するこたぁねぇからな。
街道を外れてズンズン進んでってる訳だから、そう思って当たり前。
何時もの様に、御者台でラミアーに圧し掛かられ、イブが右腕側に寄りかかる。何時もと違うのは俺の膝上にちょこんと座る分け御霊と、左側に座る娘さんの1人、エルニー。ゲームを作りたいとか言ってた娘。聖武器達はキャンピングカーの中へ。何時もなら俺の隣に出てる訳なんだが、この帰り道、順番で娘さん達に御者のやり方を教えつつ進んで来たんよ。多分向こう行ったら、結構使うスキルだし。
で、今日はエルニーの番だった訳だ。
山に入って道なき道を進む俺達。結構な急斜面な筈だが、馬車二台を引っ張りつつも、力強く登って行くケルブは頼りがいがあるよね。後でじっくりメンテナンスをしてあげよう。
そんなこんなでもう半分くらい登ったかなぁとか思ってたら、視線の先に大きな影が。
「ひぃ!!」
エルニーが悲鳴を上げる。
「大丈夫だ」
俺はそう言って分け御霊を膝から降ろすと、一人で御者台から飛び降りる。
足音も立てずにピョンピョンと跳ねてくるのは予想通りのシルエット。
「だだだ、大丈夫なんですかぁ!? あれ!! イブさん!! 魔法は!!」
「大丈夫、もちつけ」
「ん」
大慌てのエルニーと落ち着いた様子のイブとラミアー。
『おちつけ、アレに、てきいはみえない』
おお、流石は竜樹様ってか? こう言う所は流石の貫禄。そんな事を考えてる内に、シルエットが直ぐ間近に。
ドンッ!! と言う音と衝撃。その衝撃の大きさが、俺に対する信頼と親愛の証でもあると考えると、ちょっと嬉しくも有る。そして、そのシルエットの動きが、直に擦り寄る様なソレに変わる。
「めぇぇぇぇ」
「よしよし、紹介しよう、俺がテイムしたキマイラリーダーだ」
エルニーの表情が見事な程にポカンと成ったわ。




