人があつまりゃ街になる
風光明媚と言うか風光メイビーと言うか。いや、文法的にはメイビー風光か?
それはどうでも良くて。
確か風光ってのは、『自然豊かで趣きがある様』だったか?
取り敢えずツッコんどこうか。
「どこがやねん!」
乱立した建物と、やけに威勢の良い呼び込みの声。何処の新世界かと。
確かに観光地かも知れないが、決して風光明媚とは言わんぞ、こんなん!!
『【推測】ここに別荘を構えた貴族が、不便が無いようにと商人を連れてきて、その商人が定住した事で街に成り、観光地化したのかと』
定期的に客がいれば商売は成り立つからな。特にこっちの大陸、魔物の領域にさえ入らなければ、ほとんど遭遇する事ないし。その分、旅に対する敷居が低いんだろう。
それでも、ある程度生活に余裕が無ければ旅なんぞ出来ない訳だが、そう考えると、こっちは平均的に裕福な人間が多いのか、それとも貧富の差が激しいからなのか。
全体像は掴めてないが、そう言や、遺跡街でも交易都市でもスラムは見なかったな。その代わり、地区全体の素行が悪そうな場所が随所にあったが。
恐らく、そう言った場所が受け皿的に働いて、その地区その地区特有のルールとかを叩き込まれるんだろうな。
犯罪者じゃないけどグレーゾーン的な、そんな感じの連中。
その代わり犯罪者は、即、山賊やら盗賊やらへ転職、と。
まぁ良い。はるばる来たぜのリストリアータは、成程でっかい湖のある場所で、だからこそ、その湖面近くに立ち並ぶ石造りの建物の数々に思わず眉根を寄せた訳よ。
で、近付いてみたらの客引き合戦の真っただ中。『風光明媚? 何それ美味しいの?』状態。
あるぅぇ~? 美しい大自然に癒されに来たはずだったんじゃが!?
「飯ウマ?」
「お店、いっぱい」
「ふわぁ~! ひとがいっぱいです!!」
「ワンワン!!」
「アウン?」
「ワフ?」
「バウバウ!!」
……家の子達が大はしゃぎしてるから良いけど。
「こんな大きな水たまり、初めて見た!!」
「え? ここ何のお店!?」
「……いい匂いがする」
「うわぁ、人が多いよぉ」
「高い建物、初めて見た」
「大きい、です……」
娘さん達も興味津々みたいだわ。
いや、てか、むしろ最初にここに来てた貴族連中はこれで良いんじゃろかね?
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「お貴族様達は、クエトリア湖の方に別荘を構えますんで」
何か話を聞くと、ここ周辺だけで五つ位湖が有るんだと。で、お貴族様達は、その中で最も景色の良いって言われてるクエトリア湖の周辺に別荘を建ててるらしい。
因みにこの湖はトライアンデセルン湖、と言うんだそうな。
他の湖もそれなりに栄えてるんだが、トライアンデセルン湖は別格らしい。
「竜神様?」
「へぇ、この湖には竜の神様が棲んでると言われてて、そのお参りで訪れる者も多いんでさ」
何か、湖の中程にある小島にその社が有るらしい。ここに来てるのは殆どがその参拝者かね? どこぞの宗教回避して来て、別の宗教にぶち当たると言う不思議。
「竜神って、竜種が居るって事かね?」
『【思案】それに類するモノが居る可能性は否定できません』
居ないとは証明できんからな。悪魔の証明だ。
『【推論】大きさとしてはかなり大きな湖デス。巨大生物が居ても可笑しくは無いのデス』
まぁ、水平線が見える位だからな。4km以上の幅はあるってこった。
いや、別にここに竜種が居ようといまいと構わんのだけんどもよ、戦うって羽目になりさえしなければ。いや、こうして観光地化するって事は、直接的な目撃が無いからだろうし、もしかしたら自然信仰的な何かかも知れんのだし。
「フラグ~」
俺もそう思っちまったが、止めてくれラミアー。




