屋台商売
交易都市は山岳地帯にあるからってのも有って、主食になってるのは芋類と蕎麦がメイン。小麦も有るにはあるが、多少お高めらしい。
芋類と言ってもジャガイモとかそんな感じの奴じゃなく、里芋とか山芋のデカイのって感じので、基本煮て食べるらしい。
山芋は兎も角、里芋って、比較的あったかい地方の植物じゃなかったっけか? まぁ、良いけど。
ただ、芋だったとしても、粉にしたりすれば、団子みたいにできると思うんだがね。そう言った食べ方はしないんじゃろか?
まぁ、その辺はそこに住んでる人間の文化だから、基本よそ者の俺が口出しする部分じゃないんだがね。
「と、言いつつも芋の団子と兎肉の団子の甘酢あんかけを作ってみたんだわ」
芋団子も肉団子も、軽く素揚げしてあるんで、甘酢あんが絡み易い。短冊に切った各種根野菜も良い感じ。ただ、もうちょっと葉野菜が欲しい。具体的にはレタスとか。
次はヴィヴィアンも連行してこよう。うん。
味付け的には悪くは無いが、醤油が欲しいって感じ。干しキノコ、ビネガー、塩、香辛料で似たような味は作れるんだが、やっぱコレジャナイ感がね。
「おい、しい、よ?」
「ウマー」
「おいしいです!」
家の娘さん達には好評だけど、もうちょっと何とかしたい所だわ。
犬達には素揚げで、あんを掛けて無いヤツを与える。こっちもパクパクと好評で何より。
……じっと見てないで何とか言って欲しいんだが?
「我が主よ、それはいったいどのような食べ物なのでしょう?」
「団子の甘酢あんかけ」
「成程!! そしてそのレシピを自分達にも教えていただけると幸いなのですが!!」
いや、まぁ、構わんのだけんどもよ、ただ、ダンボース商会に食料出す様な部門は無かった気がするのだが?
「えーと、食堂でも作るのか?」
「いえ、我が主の仰られた通り、借金を返せない者に対する救済策として、屋台を出させようかと思いまして」
ああ、そう言えば、そんな事を言ったっけか。
借金を返せない理由が、本人の自堕落だったり、ギャンブルで溶かす様な輩は強制肉体労働で構わないと思うんだわ。
そこまで甘くする理由もないしな。
ただ、身体を壊してとか、病気の治療費がとかって場合は、返そうと思っていても儘ならない場合が多い訳だからな。そう言った人達に対しては、救済措置があっても良いと思うんだ。
なんで、ダンボースにその手段を考えろと言っておいたんよね。
しかし屋台か、確かにこの街は人の行き交いが多いし、珍しい屋台も数多く出てる。
それにこの料理なら、屋台で甘酢あんさえ温める事が出来れば、それ以外は作り置きもしておけるからな。
「成程、まぁ、構わんよ……ただ、あれだけ屋台が出てる中で、出しても大丈夫なのか?」
「は!! もちろんです!! その料理は香りが独特ですし、それに香りを嗅いでいると食欲を刺激されますので!!」
まぁ、確かに甘酢あんは食欲をくすぐるよな。
「お前が良いと思ってやるなら、俺は構わんぞ」
「は!! 有難う御座います!!」
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結果から言えば、甘酢あんのシリーズは結構ウケた。シリーズと銘打ってるのは、団子だけでなく、麺状にした、所謂、カタ焼そば等も出したからだ。
団子や麺を作り置きしておいて、“あん”だけ温めて出すと言う形式で、複数の支店を出すのも容易で、それに団子や麺を作る方の人手も必要だからな、そっちも人を雇う事が出来た訳だ。
まぁ、俺だとここまで考えて商売は出来んからな。餅は餅屋って事だろう。
あれでも流石に豪商の血族だったって事だな。




