このトール、容赦はせんっ!!
「く、くそ!! ケイン!! ソイツ等を処理しろ!! 目撃者さえ居なけりゃ、どうとでも成るわ!!」
ダンボースの言葉に、ケインが『やれやれ』って感じで前へ出る。躊躇いも無しか。貴族の権力の強い筈のこの国で、そう言う態度がとれるほど、ダンボースが地位を確立してるのか、それともそう言った事をやり慣れてるのか。
ただまぁ。
「ミカ、バラキ、ウリ、ガブリ、GO!」
「わん!」
「アンアン!!」
「アオン!」
「バウ!!」
俺の号令で、犬達が飛び掛かる。
「クッ!!」
ケインも何とか対応しようとしたが、足りんよ、経験も実力も、何もかも。あっさり噛み付かれ組み伏せられ、無力化させられる。うん。オーバーキル。オーバーキル。
「ケイン!! お、お前達も何をしておる!! その小僧をやらんか!! 愚図が!!」
一瞬でケインが無力化させられた事で、ダンボースが破落戸達にそう命令をする。いや、お前、今さっきコイツ等の首、切ったばっかなんじゃが?
それでもお互いの顔を見合わせて『どうする?』的な視線のやり取りをしている破落戸達。長年の習慣は早々忘れられんって事かね。
だが、それを許してやる程、悠長じゃねぇんだよ。
「ファティマ!」
『【了解】サー、イエス、サー!』
魔力装甲を纏い、聖斧の切っ先を破落戸共の方へ。俺の強さを知っている破落戸共は、それだけで動けなくなった。
「ひぃ!! だ、誰か!!」
ここに来てようやっと、自身が危機だって理解したらしい。ダンボースがソファーから逃げ出そうと背もたれを飛び越えるのを失敗し、足を引っかけ顔から落ちる。それでも逃げようと、わたわたと藻掻く。
側に侍っていた女達は、どうして良いのか分からないのか、身を竦めつつも、なるべくダンボースから身を遠ざけようと、ソファーの端に後退っている。
『【質問】オーナー、あんまり大事に成らない様に【結界】を張っておく方が良くないデス? ボクは聖弓みたく【結界】は得意じゃないデスけど、張れない事もないのデス』
「あん? あー、いや、むしろ、コイツが誰かと揉めて居るって周囲には知って貰った方が良いから、このままで良い」
『【承知】ラジャーデス』
這う這うの体で逃げようとするダンボースを見ながら、ラミアーに“お願い”をする。
「後で、ちゃんと貰うからね」
そう言ってラミアーがダンボースを“磔”にした。その『グワシ』で超能力操るポーズ、何時まで続ける気なのかしら? まぁ、良いけど。
だらしなく弛んだ肉塊が、空中に十字に固定される。俺はソレが【念動力】だと分かってるけど、何も知らない相手からすれば、“何をされているか分からない”ってのは、随分と恐怖だろうさね。
実際、犬達に踏み付けられてるケインとやらも、破落戸達も、ましてや侍っていた女達も目を見開いている。
「なぁ、お前……」
そう言や、破落戸達の名前知らんや。興味も無かったし。
そう思いだして首を捻ってると、その事に気が付いたのか、破落戸の1人が『あっしの名前はディランデドゥです』と言って来た。
……ずいぶんとカッコ良さげな名前じゃのう。破落戸のクセに。
まぁ、良いか。
「この店の状況とか分かるか? 特に、このデブが店にどれだけ貢献してるかとかその辺り」
「へ、へい!!」
聖斧を突きつけられているからってのも有るんだろうが、何だろね? この三下ムーブ。
それはそれとして、話を聞く限り、基本的な店の経営はこのダンボースはタッチせずに、古株の幹部がやってる様なんだわ。ただ意外だったのはこの男、代官やらこの街の兵士団のトップとかに取り入るのが非常に上手くて、そう言うのも有って、この街で結構な好き勝手が出来てたらしい。
「ふうん? だとしたら、取り敢えず鼻薬嗅がせてる間は、あんまり干渉して来るって事は考えんで良いな」
「あ、あの、何をお考えで? 坊ちゃん」
ディランデドゥじゃない破落戸がそう聞いて来たんで、俺は満面の笑みを浮かべながら答えてやった。
「乗っ取り」




